日本マンガのアメリカ侵攻:テレビに続いて映画征服は可能か?
短い要約。時間の無い時はこちら。
8月26日付けでFOXNews.comに「Japanese Comics Invade; Can They Conquer?」という記事が掲載された。記事では日本のマンガがアメリカでかなりの成功を収めているにも関わらずアニメ映画の興行成績が振るわない事を取り上げ、アニメ映画そのものよりアニメ・マンガを題材にした実写映画の方が成功する可能性が高いとする意見を載せている。
長い要約。
マンガは現在コミックブックや子供向けエンターテイメントの世界で圧倒的優位を保っている。しかし映画としては成功できるだろうか?
「マンガはアメリカの出版業界で最も急成長を遂げている分野の一つだ」業界向け組織ICv2のミルトン・グリエップは語る。ICv2によるとマンガは2002年の5千5百万ドルから昨年いきなり1万2千5百万ドルにまで売上を急激に伸ばした。まだ何のことかわからないと言う人のためには『ポケモン』と『遊戯王』は両方とも日本マンガのアニメ版と言えばわかるだろうか?
現在アメリカで放映されているアメリカ産アニメ『ティーン・タイタンズ Teen Titans』とフランス産アニメ『トーターリー・スパイズ!Totally Spies!』には日本アニメの強い影響を見ることができる。しかしニコロオデオンのアメリカ生まれの人気シリーズ『アヴェイターAvatar』に至っては影響と言うより一見純日本産に見えるほどだ。そしてカートゥーン・ネットワークには「トゥーンナミ」というアニメ専門時間帯もある。しかし今までのところアニメは劇場では成功していない。そして悲観論者に言わせると決して成功はしない、ということだ。ハリウッドでトップ脚本家の代理人を勤めるジョナサン・ハングによると「アメリカで上手くいかないのは文化的なこと」も理由らしい。
歴史
マンガの起源は12世紀にまで遡れるとも、19世紀初頭の「北斎漫画」とも言えるかもしれないが、現在のマンガの原型は第二次世界大戦後に日本が西洋の芸術に触れたことで作られた。(マンガの大きな皿のような目は西洋のコミックスから直接の影響を受けている。)アメリカでの日本マンガの歴史は1970年代のViz Media の翻訳マンガから始まる。今日でもVizは英語圏の有力なマンガ出版会社であり1500万人とも推定されるファンにマンガを供給し続けている。マンガの優勢を受けてDCコミックスでは最近マンガ専門の部門を設立した。
アメリカでアニメはアンダーグラウンドなものとして『アキラ』と共に始まった。『アキラ』も初めはマンガとして誕生した後1988年に大友克洋監督によってアニメになったのだ。
遊戯王
『遊戯王』のアニメ放映はアメリカでは2001年から開始された。そして半年も経たないうちに人気番組になり、すぐにテレビゲーム、フィギュア、カードゲームの3種類の玩具が小売店に氾濫するようになった。日本の流行を取り入れアメリカ市場に送り出してきた4kids Entertainmentは『遊戯王』をアメリカに紹介して以来9千8百万ドルを稼ぎだしている。『遊戯王』関連商品の中で唯一弱かったのが映画である。昨年公開の『遊戯王』映画の興行成績は2千8百万ドルで、映画はファンと批評家の両方を落胆させた。不戦を誇った『遊戯王』の失敗はある疑問を投げかけた。マンガは映画とは相性が悪いのか?
映画
前述のハングは自身のHung Entertainmentを立ち上げる以前に、テレビゲームを基にした日米合作映画『ファイナル・ファンタジー』(2001年)のプロデューサーであるクリス・リーと一緒に働いたことがあった。『ファイナル・ファンタジー』は1億5千万ドルの投資に対して3千5百万ドルの利益しか上げることができず、結局ソニーに多大な損害をもたらした映画だ。しかしハングによると『ファイナル・ファンタジー』では問題は文化的なものだけではなかったようだ。「まずCGで作られた人間というのは自然に見えないということが挙げられる。それからこれは文化的なことだが、脚本に問題があった。ゲームから取り入れた所が映画では上手くいかなかった事もある。スピリチュアルなストーリーも問題で、アメリカの子供たちが見たかったのはただのドンパチだった。更に言うと、あれは単にダメな映画だったんだ」
ハングによるとアメリカ産2Dアニメ映画も日本のマンガのスタイルを取り入れるのに苦労しているという事だ。
「ディズニーは『トレジャー・プラネット』でマンガのスタイルを使おうとしたけれど失敗した。」ここでハングが言うスタイルとは大きな目のキャラクターとハッキリしたコントラストを持った絵のことだ。「ドリームワークスは『シンドバッド』で試みたがやっぱり上手くいかなかった」
そしてハングは言う。「マンガ(アニメ)がここアメリカで映画として成功する唯一の方法は実写にすることだ」
宮崎駿の傑作アニメ『千と千尋の神隠し』(2001年)は日本では興行成績が2億5千万ドルに達しアメリカの多くの批評家がその年のベスト映画リストに名前を挙げたにも関わらず、アメリカでの売上は1千万ドルにも及ばなかった。もう一つの宮崎アニメ『ハウルの動く城』はアメリカでは今だ5百万ドルにも達していない。*1
これらの失敗に学んだのか、アメリカの映画スタジオは実写映画で大ヒットをあてようと『アキラ』のような人気マンガの権利買いに動き出した。しかしそれでもまだ問題は多い。「『アキラ』はワーナー・ブラザーズのところだ」ハングはため息をついて言った。「企画段階で苦しんでいるんだろうな」
ハングは一時カナダ産マンガ会社ドリームウエーブの代表を務めていて、玩具会社ハスブロから『トランスフォーマー』マンガを作る権利を買っていた。2007年公開予定のドリームワークスによる映画『トランスフォーマー』(正式タイトルは未定)はマンガを大スクリーンに持ち込む大手スタジオによる試みである。伝統的なマンガ→アニメ→アニメ映画の順番通りではないものの、プロデューサーのドン・マーフィーはそこには繋がりがあると言う。
「巨大ロボットというアイディアだけでとってもマンガ的だ」
現在のマンガ人気とスーパーヒーローを求める映画業界が合体したら上手くいくのか?『トランスフォーマー』はその興味深い試金石になるだろう。もし巨大ロボットがアメリカの観客を征服するのに失敗したら、その時は何が出てくるのだろうか?
訳注1)この記事の著者はアニメとマンガを時々混同しているようである。英語ではアニメもマンガもどちらも cartoon と一つの単語で表すからかもしれない。この要約では分かりやすいように私が多少言葉を整理した。
訳注2)「それは違うダロ〜」というツッコミはどうかひとつ。
ULTIMO SPALPEENさんの8月27日のエントリー「ハリウッド実写化企画のある、日本アニメ・マンガのリスト」ではこの記事に関連して、現在ハリウッドで企画進行中の日本アニメ・マンガのリストを取り上げている。(リストは企画の現時点での進行状況説明付き。)
*1:アメリカでの日本アニメ歴代興行成績ベスト28はこのブログの8月25日のエントリーをご覧ください。