「少年ジャンプUSA」発行VizMedia副社長インタビュー(4)最終回「マンガの定義と販売ルート」

ICv2 "Interview with Viz Media VP Liza Coppola: Part 4 Cut or Uncut Anime, Fan Downloads, DVD Pricing"より。

地味な記事なので当初読む人はいるのか心配したViz副社長インタビュー記事も、今回で最終回。意外に多くのサイトさんにリンクを貼っていただいて、嬉しかったです。

幾つかの出版社がオリジナル・イングリッシュ・マンガ(OEL)*1を出版する努力を続けているが、Vizではこれを日本マンガと同じ読者を取りあい競合するものとして見ているのか?そしてOELは今後どうなると思うか?

定義によればOELはマンガではない。マンガは日本産のものを指す。Bookscanの売上トップ10を見ても、それほど多くのOELは入っていないと思う。

でもそこそこ成功している作品もある。

グラフィック・ノベルとしては分類されるべきかもしれないが、必ずしもマンガではない。OELを作ったらという意見も外部からあったが、Vizが別のレベルで意味があると思ってやっているのは世界銀行との提携によるOEL。このOELマンガにはエンターテイメントとしてではない別の意図や目的があるからだ。

コートニー・ラヴ*2のマンガ読者と『ナルト』『鋼の錬金術師』『剣心』『ワンピース』の読者は違うと思う。共通の読者も少数いるかもしれないが、それぞれ別の読者に向けたものだ。これはシネ・マンガ*3にも言える。

マンガの定義は日本産だと言うが、成功している『メガトーキョー』や『プリンセス・アイ』のようなアメリカ産のマンガと日本産マンガに原産国以外の違いはあるのだろうか?

日本から情報を得て日本産と認識していて、アメリカで発売される前にマンガを日本から取り寄せる、というファンがいる。『メガトーキョー』やコートニー・ラヴのマンガを読む読者は前者のファンとは全く違うファンで、全然別の思考態度を持っている。アニメでも同じで、自分たちでアニメを作ろうとする人たちもいるが・・・

『少林対決 Xiaolin Showdown』*4とか・・・

そう。でもストーリーかアニメ自体か、どちらかが違うと思う。アニメにもマンガにも、日本産の真似をしようとする人たちがいるのは面白いが。

ぐるっと回って元に戻ったような感じだ。ディズニーのような偉大なアメリカのアニメーターたちが日本のアニメーターたちを刺激してアニメが日本で栄え、それからまた今アメリカに戻ってきている。

確かに興味深い。ただアメリカ産マンガのファンでは無く「これは日本から来たクールなマンガで、TVのアニメからではなく友達から聞いて知った」という感じのファンが沢山いると思う。これは全く別の態度だ。

原産国はクールさの一つの要素。

作品がTVで放送されるとマンガの売上は2倍になるが、もしTVで放送されていなかったらそのマンガのファンはTVで見てからマンガを買いに出る人たちと同じだっただろうか?色々な読者のグループがある。コアなファンの読者、TVで見たので有名書店でマンガを買おうとする読者、日本から情報を得てTVは見ないがマンガは買う読者など。マンガを読むからといって全部が同じ種類の読者と言うことはできない。

マンガにとって最も成功している販売ルートは一般書店だが、マンガの売り場面積は増え続けているのか?

増え続けているが、いつかその拡大も止まる時がくるだろう。しかし書店からサポートも受けていて売上は良く、現在Vizのビジネスの中心となっている。アニメにも言えることだが、Vizにとってのビジネスチャンスは非伝統的な販売ルートにある。Hot Topic*5では、Hot Topicだけで買える(マンガでは無い)商品を扱ってもらった。Hot Topicに来たお客さんがTシャツやアクセサリーを通して『ナルト』を知り本屋に行ってマンガを買ったのだ。一般書店以外の売り場でマンガの認知度を上げることができれば、マンガ全体の売上を大幅に伸ばすことができるだろう。

現在Vizは大手スーパーマーケットなどで雑誌を売っているが、そこでの売上の見通しは?

ウォールマートやターゲットなど大手販売店ではいつも困難がつきまとう。まだマンガを不確かなものと見ているからだ。マンガについて教えていかなければいけないが、一旦大手販売店がマンガという商品の力を理解すれば大きな売上が見込めるだろう。Vizはベスト・バイと良い関係で、「ベスト・バイ・アニメリカ」*6を発行している。これからも大手とは結びつきを強めていきたいと思っているが、一つの商品としてではなく「少年ジャンプ」というブランドを確立するのが大事だ。

コミックス専門店はどうか?大手販売店やネット書店で価格競争が激化する中、マンガやアニメを扱い続けるべきか悩んでいるコミックス専門店もある。

コミックス専門店もVizには重要だ。個人的にも専門店からのメールに答えたりして、彼らの悩みはわかっている。「大手ばかりサポートして我々にはどうなんだ?」と言うのを聞いたこともある。

来年でVizは20周年を迎えるが創立当初から専門店に支えられてきた。Vizのマンガを小売店に卸しているDiamondの副社長と最近この点について議論した。どうやったら市場を成長させられるか、どう小売店の助けになれるか。そして専門店をよりよいマンガの売り場にするための3ページにわたる概要を作成した。

一般書店や大手販売店とは違って、コミックス専門店にはオタク・コミュニティとつながる別の役割があると見ているのか?

地元のコミックス専門店に直接行き、ターゲットやウォールマートなどの大手販売店には行かないという読者もいる。コミックス専門店は読者の最新の話題を把握していて、実際その話題の発信元だったりする。Vizにとってコミックス専門店はコアなファンに届くための大事なルートだ。何故ならコアなファンこそがマス・マーケットのファンに影響を与えていくものだから。

「少年ジャンプUSA」発行VizMedia副社長インタビュー(1)「少女向けアニメと少女マンガ雑誌」

「少年ジャンプUSA」発行VizMedia副社長インタビュー(2)「マーケティング戦略」

「少年ジャンプUSA」発行VizMedia副社長インタビュー(3)「アニメDVDとファンサブと価格」

それぞれ出版しているマンガを見れば当たり前のことだが、VizとTokyoPopではマンガの定義が違う。当ブログで以前取り上げた「米マンガ出版社大手TokyoPop編集長インタビュー:多様化するマンガとマンガの定義」では上記Vizの定義とは違うマンガの定義が語られている。

ただ去年の段階でVizは「日本の雑誌で行っているような新人マンガコンテストを開く予定がありアメリカ人マンガ家を育てていく」という趣旨のことを言っていた覚えがあるのだが、考えを変えたのだろうか?

*1:極々簡単に言ってしまうとアメリカ産マンガ。今年はTokyoPop発売OELの健闘が話題になった。

*2:TokyoPop企画のマンガ『プリンセス・アイ』のこと。キャラクターデザインは矢沢あい。マンガは鯨堂みさ帆コートニー・ラヴ原作(ということになっている)。

*3:映画のスチール写真などをマンガのようにコマ割りした読み物。TokyoPopの『スター・ウォーズ』シリーズなどが今年大ヒット。

*4:アメリカ産カートゥーン。擬似日本アニメと言われたりしている。

*5:Tシャツ、アクセサリーなど10代向けの服装品を売る店らしい。

*6:アニメ雑誌