なぜ『首斬り朝』がアメリカで人気なのか?

朝目新聞さんが23日のエントリーで当ブログの記事“アメリカ11月月間売上マンガトップ50”(12月19日)を取り上げてくださったのだが、そのベスト50の2位に『首斬り朝 6巻』が入っていることに触れ、こうコメントしている。

とりあえず、「首切り朝」の異常な強さを支えるモノが何なのか気になります。

確かに先々月の“グラフィック・ノベル部門アメリカ9月月間売上ベスト100内のマンガ”でも『首斬り朝 5巻』はマンガの中では1位、グラフィックノベル部門で6位にランクイン。アニメ化された作品や人気少女マンガが並ぶ中『首斬り朝』はリスト内で異彩を放っている。

Samurai Executioner Volume 6: Shinko the Kappa

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なぜ『首斬り朝』が人気なのか? その人気の理由について私の意見をちょっと書いてみたいと思う。

『首斬り朝』は原作・小池一夫、劇画・小島剛夕。『子連れ狼』で有名なコンビの作品である。そしてご存知の方も多いと思うが『子連れ狼』は日本のマンガがアメリカで注目をされ始めた80年代初頭、特に注目を集めた作品だった。

これはアメリカン・コミックス界の大物フランク・ミラーが大絶賛したことによると言われている。当時ミラーは『デアデビル』や『ウルヴァリン』を発表し既に名声を得つつあったが、この後未だにその売上記録は破られていないと言われるグラフィック・ノベルの超人気作品『バットマン:ダーク・ナイト・リターンズ』や最近映画化された『シン・シティ』などの作品を発表し更にその名声を高めることになる。そのミラーが絶賛したことにより『子連れ狼』は一躍注目され高い評価を受けることになった。ミラーは後に『子連れ狼』の英語版の表紙も描き解説も寄せている。

Lone Wolf and Cub Volume 1: The Assassin's Road (Lone Wolf and Cub (Dark Horse))

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ミラーは『子連れ狼』以外にも大友克洋など他のマンガ家作品にも入れ込んだらしい。1982年の「コミックス・ジャーナル」(硬派なコミックス批評誌)のインタビューに答えて、日本のマンガについて次のように語っている。

フレデリック・ショット『Manga!Manga! The world of Japanese Comics』p.35 Tokyo:Kodansha Internationalより引用。)

私は最近日本のマンガにはまっている。マンガは(アメリカの)コミックスに近いものの、その絵はかなり象徴的だ。読者は線のある特定の配置で、例えば鼻を認識することになる。・・・一連のイメージを描くことで情報を伝えているところはコミックスと同じだ。

・・・日本語で書かれていたにもかかわらず、全く混乱することなく何百ページのマンガを読むことができた。それは日本のマンガが絵で多くを伝えているからだ。日本人はアメリカ人のコミックス作家よりもっと純粋な形のコミックスに取り組んでいる。

ミラーのファンは当然のことながらアメリカン・コミックスのファンが多い。前述した9月11月の売上リストはコミックス専門店*1の売上のみに限ったリストなので、ミラーによって『子連れ狼』を知ったアメ・コミファンが同じ作家コンビの『首斬り朝』を買っている、とは考えられないだろうか。そして絵的にもアメリカン・コミックスの“写実的な”*2描線に慣れている人にとって劇画は親しみ易いものなのかもしれない。

Frank Miller's Sin City Volume 1: The Hard Goodbye 3rd Edition

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*1:コミックス専門店については当ブログエントリー「アメリカのコミックス専門店」を見てください。

*2:アメ・コミの絵を“写実的”と言うと異論がある方も多いかもしれませんが、取りあえずニュアンスとして。