米業界サイト選出「2005年度 マンガ・オブ・ザ・イヤー」
今年一発目のエントリーは、業界サイトICv2の選ぶ2005年のマンガ賞の発表の要約から。最初から長いエントリーですが、今年もよろしくお願いします。
このブログではお世話になりまくりの米業界サイトICv2による一連の「マンガ・オブ・ザ・イヤー」賞の記事は、コレさえ読めば2005年度米マンガ業界の様子が大雑把に把握できてしまうという優れモノ。ICv2さん、今年もお世話になります。
それでは Here we go!
「マンガ出版社・オブ・ザ・イヤー」→ Viz Media
ICv2では2年連続「出版社・オブ・ザ・イヤー」としてViz Meidiaを選んだ。色々な会社に賞を与えるべきとは考えているものの、2005年第4四半期の『ナルト』の驚くべき売上を考えると他に選択肢は無かったと言える。カトゥーン・ネットワーク(CN)でのアニメ放送によって『ナルト』関連商品の売上は急騰。2004年の8月というかなり前に発売されたマンガ第1巻はアニメ放映直後の週に突如2005年度売上第2位のグラフィック・ノベルとなり、発売される全ての巻が売上リストの上位に登場した。
『ナルト』の成功に加えて、Vizの『鋼の錬金術師』は2005年度最も売れたマンガとなり、『Bleach』『ウルフズレイン』『ワンピース』『デスノート』『ホットギミック』『ガッシュベル』もアメリカ市場で順調に売れている。『犬夜叉』が過去12ヶ月間で32万5千冊売りあげたことも含めて2005年度はVizの年だったことは明らかだ。
↓Viz Mediaの『ナルト』英語版・第1巻。
- 作者: Masashi Kishimoto
- 出版社/メーカー: VIZ Media LLC
- 発売日: 2003/08/06
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
「マンガ・オブ・ザ・イヤー」→ 『鋼の錬金術師 1巻』
『鋼の錬金術師 1巻』のように一般書店とコミックス専門店の両方で非常に良く売れたマンガを「マンガ・オブ・ザ・イヤー」に選ぶことに議論の余地は全くないだろう。『ナルト』のようにCNのアニメ放送がその売上に大きく貢献したとは言え、アクション、キャラクター、独特の世界観、ギャグ、それに加えて“心”を描いたマンガそれ自体が珠玉の名作であることも間違いない。
『ナルト』はもちろん、昨年この賞を取ったTokyoPopの『フルーツバスケット』はかなり僅差の次点だった。『フルーツバスケット』は日本とアメリカの両方で良く売れ、特にアメリカの一般書店では夏の数ヶ月売上リストのトップを独占し、更には男性客中心のコミックス専門店でも同様に良く売れた。驚いたのは『フルーツバスケット』がTV放送の助け無しに口コミで売上上位を維持したことだ。2005年度の売上上位3作品『フルーツバスケット』『ナルト』『鋼の錬金術師』と第4位に位置する作品では売上にかなりの差があるため、実際に2005年度のマンガ市場を支配したこの3作品に「マンガ・オブ・ザ・イヤー」の名誉を与えるべきかもしれない。
↓ICv2も絶賛の『鋼の錬金術師』英語版・第1巻。
Fullmetal Alchemist 1 (Fullmetal Alchemist)
- 作者: Hiromu Arakawa
- 出版社/メーカー: VIZ Media LLC
- 発売日: 2005/05/03
- メディア: ペーパーバック
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
「マーケティング・キャンペーン・オブ・ザ・イヤー」→ TokyoPopの読者拡大戦略
TokyoPopは8月から「CosmoGIRL」という一般ティーン向け雑誌にマンガを供給し始めたが、その後Universal Press Syndicateとも契約を交わし、幾つかの大手新聞日曜版のコミックス・コーナーでTokyoPopのマンガ連載を今月から開始することになった。新聞という媒体でのマンガの連載は、莫大な数の潜在的読者にマンガを届ける可能性を持つ。
その上TokyoPopの『トータリー・スパイズ』など子供向けシネ・マンガは、20万部を売り上げるという大きな成功を収めており、このシネ・マンガが多くの若い読者にマンガという形態を紹介した功績も大きい。つまりTokyoPopはマンガ読者の拡大を試みる市場のリーダーとなっているのだ。
↓新聞連載されるTokyoPopのアメリカ産マンガ『Van Von Hunter』。
- 作者: Ron Kaulfersch,Mike Schwark
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2005/05/31
- メディア: ペーパーバック
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
「マンガの事件・オブ・ザ・イヤー(1)」→ 非日本産マンガの急増
ファンや出版社によっては「マンガ」という言葉を日本産のマンガ以外に使うことに賛成しないかもしれないが、アメリカを含む世界各地から日本マンガに影響を受けたコミックスが現在どんどん生み出されている。「日本産だけがマンガ」とする純粋主義者たちの反対はあるものの、日本産以外のマンガはOEL(Original English Language)マンガと呼ばれ、今日の供給過多とも言われるマンガ市場で健闘している。
アメリカ一般書店のマンガ売上リストで、TokyoPopの『Warcraft』は12位、長い人気を誇るDark Horseの『Megatokyo』は僅差で13位に入っている。それ以外にも、TokyoPopはコートニー・ラブのようなアメリカ人ロッカーとライター、そして日本人のマンガ家を起用して『Prinsess Ai』を成功させた。
OELのカテゴリーではTokyoPopがリーダーだが、TokyoPopがOEL発売により多く依存していると考えるのは間違いだ。ICv2の調査では、2006年のある3ヶ月間TokyoPopの発売するマンガは24タイトルで、17作品が日本産、3作品が韓国産、そしてOELはたった4作品だった。しかし実際『Warcraft』『Megatokyo』に匹敵するOEL成功作品が今後生まれる可能性はあるのか?来年の今頃までには答えは出ているだろう。
↓TokyoPopのOELマンガ『Warcraft』。
Dragon Hunt (Warcraft: The Sunwell Trilogy, Book 1)
- 作者: Kim Jae-Hwan,Richard A. Knaak
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2005/03/30
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
「マンガの事件・オブ・ザ・イヤー(2)」→ マンガとアニメ関連小説の売上増加
アニメやマンガに基づいた、もしくは原作である小説が2005年には売上を伸ばした。DH Pressの菊池秀行『バンパイアハンターD』(イラスト・天野喜孝)1巻や、TokyoPopの『.hack//AI Buster』がその筆頭だ。5月に発売された『バンパイアハンターD』はアメリカ一般書店の2005年マンガ売上トップ10にランクインするほどだった。
2006年には、Vizが『鋼の錬金術師』『攻殻機動隊』『スチームボーイ』と2つの少女向け作品『世界の中心で愛をさけぶ』『下妻物語』を、TokyoPopが『ラブひな』『ガンダムシード』などのマンガ・アニメ関連小説の出版を予定している。
↓『バンパイアハンターD』小説・英語版。
- 作者: Hideyuki Kikuchi,Yoshitaka Amano
- 出版社/メーカー: Dark Horse Manga
- 発売日: 2005/05/24
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (3件) を見る
「マンガの事件・オブ・ザ・イヤー(3)」→ やおい・少年愛マンガの発売数上昇
2005年にはアメリカのマンガ市場で多くのやおい作品が発売された。あまり露骨ではない少年愛作品『グラヴィテーション』をTokyoPopが発売してこのジャンルの先鞭をつけたのは数年前のことになるが、Digital Manga や Central Park Media(Be Beautiruflライン)などの中堅出版社も劇的にその発売点数を増やし、2005年にはTokyoPopが少年愛・やおい作品を専門とするBluレーベルを発表した。
↓Central Park Media「Be Beautiful」レーベルで発売された『Kizuna−絆−』英語版。
- 作者: Kazuma Kodaka
- 出版社/メーカー: Carlsen Verlag Gmbh
- 発売日: 2003/07
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (7件) を見る
「ビジネス・オブ・ザ・イヤー」→ Sho-ProとVizの合併
アメリカのマンガ業界にとって2005年最もインパクトがあった合併は、日本のSho-Pro EntertainmentとViz, LLCが一緒になりViz Mediaとなったことだ。新しい組織は、日本のマンガ出版社トップ3のうちの2つである小学館と集英社のプロパティーのために、アメリカでのメディアや商品のライセンスに関連した業務を行うことになる。
Sho-Pro EntertainmentとViz, LLCの合併のきっかけとなったのは、Viz副社長のインタビューによると『犬夜叉』映画のキャンペーンだった。↓『犬夜叉』英語版アート・ブック。
- 作者: Rumiko Takahashi
- 出版社/メーカー: VIZ Media LLC
- 発売日: 2005/12/06
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログ (1件) を見る
「論争・オブ・ザ・イヤー」→ マンガの検閲問題
日本のマンガをアメリカの市場に流通させるのは、微妙な問題を含むビジネスだ。過去数年間、市場の動きは「本物」や「日本のオリジナル版に忠実」な方向に確実に進んでいるが、例外はある。DC Comicsが『天上天下』を部分削除して発売したことがファンの怒りを買い、2005年3月には『天上天下』シリーズに編集部分が30以上あることを数え上げたファンサイトが次々に非難の声を上げた。この問題でシリーズは知名度を得たもののアメリカ市場に大きな影響を与えるには至らず、ICv2が話を聞くことができた小売店によると、この検閲騒動でシリーズの売上は伸び悩んだということである。
結果としてこの問題が全体に与えた影響を計るのは難しいが、出版社に対しては影響力があったようだ。Del Reyは「成人向けの内容」を含むマンガには編集を加えずそのまま出版するが、「18歳以上」とマークを付けビニールをかぶせて発売すると最近発表した。
↓修正が多くファンに不評のDC Comics発売・英語版『天上天下』。
- 作者: Oh! Great
- 出版社/メーカー: CMX
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (1件) を見る
"ICv2 2005 Manga Awards--Part 1"(1月3日)
"ICv2 2005 Manga Awards--Part 2"(1月3日)