NYタイムスのアニメ記事「忍者の体の中にいる妖狐に気をつけろ」−『ナルト』『鋼の錬金術師』『サムライチャンプルー』

NY Timesの記事"Just Watch Out for the Fox Demon in the Ninja's Body"*1(1月15日)より要約。

NYタイムスの記者Mike Hale氏による記事。『ナルト』『鋼の錬金術師』『サムライ・チャンプルー』(そして『妄想代理人』『フリクリ』)をベタ褒めしている。

日本産アニメーション映画の素晴らしさはアメリカの映画館でもう証明済みだ。オスカーに輝いた宮崎駿の『千と千尋の神隠し』をその転換点として、現在高畑勲今敏などのアニメ監督はアメリカで惜しみない賛辞を受けている。

それに対してTVアニメはそのイメージに問題がある。最も人気の出た『ドラゴンボール』『遊戯王』『ポケモン』のような番組は「日本産アニメは単におもちゃ、ゲーム、トレーディング・カードを若い視聴者に売りつけるためだけに企画された」という印象を助長しているからだ。加えてニュースや雑誌の見開き広告などでアメリカ人が時々見かける高い年齢層向けの番組は更に印象が悪い。不気味なほど子供っぽく、気味の悪いほど性的で、おどろおどろしく暴力的というイメージなのだ。
Naruto, Vol. 5
しかしたとえ10代の熱狂的ファンや、ヴァージン・メガストアで『ファミレス戦士プリン』DVDを必死で探すような大人でなくても見る価値のあるアニメも当然ある。日本では圧倒的な量のTVアニメが作られているのだ。Anime News Networkのリストを見ると、日本では30近くの新番組が今年の1月から4月にかけて予定されている。その上脚本家やアーティストたちはマンガ、TVアニメ、劇場アニメの垣根を超えて仕事をしている。あの宮崎駿でさえ映画に集中する以前、20年ほど前にはTV番組を作っていたのだ。更に言うと、子供向けアニメと大人向けアニメの差はアメリカほど日本ではハッキリしていない。その結果全体で良質な作品が生まれている。

つまり劇場アニメのストーリーや映像の素晴らしさを持ったTVアニメがあっても決して不思議ではない、ということだ。実際カートゥーン・ネットワーク(CN)の番組群の中にまぎれているだけで、既にアメリカのTVでその素晴らしいアニメを見ることができる。『ナルト』『鋼の錬金術師』『サムライ・チャンプルー』といった作品は多くのアメリカ産カトゥーンより出来が良く、ゴールデンタイムの実写番組と比べてもひけをとらない。そしてCNの基準では人気番組となっていて6桁の視聴者を得ている。とは言え仕事を持った大人にとってこれらの番組を見るのはデジタルビデオレコーダーの助けが必要だ。もしレコーダーが無い場合は24時間のTVガイドやエネルギー・ドリンクがいるだろう。

CNは自社製作のカトゥーンを流す平日のゴールデンタイム以外に、吹替日本産アニメとアメリカ産カトゥーンの両方を混ぜて放送している。自社製作品『Ed, Edd, n Eddy』『Camp Lazlo』『The Grim Adventures of Billy and Mandy』はキャラクターやストーリー中心と言うよりも笑い中心だ。日本アニメがゴールデンタイムに放送されるのは唯一土曜日の夜「トゥーンナミ」と呼ばれる時間帯。最近ここに訓練中の若い忍者の物語『ナルト』、海賊冒険譚『ワンピース』、31世紀の鼻毛戦士『ボボボーボ・ボーボボ』が加わった。この時間帯以外では日本産アニメは早朝か午後に予告無しに現れたり消えたりしている。
Fullmetal Alchemist 3 (Fullmetal Alchemist)
しかし日本アニメは放送時間を探し出す手間や夜更かしの価値はある。現在典型的なアメリカ産カトゥーンには『スポンジボブ』『シンプソンズ』『サウスパーク』など良いのも悪いのも含めて、成長を止めたかのような思春期の若者か、異常に大人びた子供たちが登場する。反対に良い日本アニメは伝統的な物語の流れを持ち、深みを持ったキャラクターの成長の物語だ。事実その最も素晴らしいところは物語がオーソドックスなことである。反対にアメリカの子供向けカトゥーンはハンナ・バーバラ以降の流行を追い続けることにはまっているかのように見える。(CNも同様に考えているのかもしれない。『IGPX』は日本のアニメスタジオと協力して製作した正統的なレースアニメである。)

ストーリーやキャラクターの感情の強調はその基調となる設定が何であっても――忍者、サムライ、SFでも――変わらない。最も印象的なのは『ナルト』である。『ナルト』には「村を脅かした一匹の妖狐が一人の男の子の体の中に閉じ込められた」という幻想的な前提が存在する。邪魔者として育ったそのトラブルメーカーの少年は12歳となり、村一番の忍者になることで自分を取り戻すと誓う。

番組では後にアメリカ産のカトゥーンでも使われるようになった視覚的効果を採用している。強い感情の発露の瞬間に顔や体の大胆なゆがみがおこり、セミ・リアリスティックなモードから作品全体が白黒の走り書きの線のようなモードへと突然変わるのだ。しかしアメリカ産カトゥーンではそのような効果が効果そのもののために使われているように感じられる。多くの番組は振り子のように振れる手足とぎょろぎょろ動く目の連続をつなぎ合わせたフレームのようだ。『ナルト』では効果は語られるストーリーのためにある。

そして少なくともCNで放送された18回の番組中ではアメリカで現在放送されている他の素晴らしいTV番組同様、子供時代の孤独、願い、快活さなどを上手くとらえている。ユーモアは散漫でストーリーはシンプルかもしれないが、これは結局ティーンエイジャー向けのアニメなのだ。しかしナルトが初めての忍者試験前に深夜ラーメン屋に行くシーンなどのように、疑念と反省をあらわすシーンもある。アメリカ産カトゥーンでは決して出てこないような場面だ。この比較はあまりフェアとは言えないが『ナルト』はCNの他のアメリカ産カトゥーンと比べると、才能ある異端児的番組『吸血キラー 聖少女バフィー』と多くの共通点をもつようだ。

アニメ好きは他のお気に入りを深夜に見つけることができるかもしれない。錬金術で体を一部と全部失った兄弟の物語『鋼の錬金術師』は感動的だ。絵としては『タンタン』や『エクスカリバー戦記』の間に位置するようなスタイルを持ち色も美しい。日本のTV朝日で最近行われた調査でオールタイムのベストアニメに選ばれている。『サムライ・チャンプルー』にはよく出来たティーン向け映画『クレージー/ビィーティフル』から抜け出たようなはみ出し者3人が登場し、グラフティ・アーティストによって描かれた浮世絵のような19世紀日本を旅する。
Samurai Champloo 01
他の二つのミニシリーズにも注目してみよう。ノワール的都会派スリラー『妄想代理人』(このアニメのオープニングは特に魅惑的だ。趣味の悪いJ−ポップのついた陳腐なアニメのオープニングに対する皮肉たっぷりの返答である)と様々な要素を持った才気走った作品『フリクリ』だ。全6話の『フリクリ』は小さな町の思春期の少年とロボットとギターを振り回す異星人の少女にまつわる非現実的なお話。ただ『妄想代理人』も『フリクリ』も現在CNの放送スケジュールには載っていない。CNの広報の女性によるとこれからの放送はまだ未定のようである。

関連記事:ICv2"TV Anime Lauded in N.Y. Times:'Naruto,' 'Full Metal Alchemist,' & 'Samurai Champloo'"(1月17日)。

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