アメリカのマンガ出版社:ダーク・ホース社の巻。

最近アメリカのマンガ界も何かと色々騒がしい感じだ。日本マンガほどは売れていないようだが、アメリカ産マンガ(別名OEL− Original English Language Manga)も続々出版されているし、日本人マンガ家さんたちの中にも海外に目を向ける人も増えてきた。

そもそもOELマンガと言っても、中国系アメリカ人やイラン系アメリカン人やドイツ系アメリカ人のマンガ家さんたちもいたり、実際ヨーロッパに住んでいるマンガ家さんもいたりしてそれぞれ独特なマンガを作り出しているわけだし、日本人マンガ家さんたちがOELに協力している場合もある。その上、日本人マンガ家さんが絵を担当したマンガっぽいアメコミ本や、他のアメコミの大御所と混じってアメリカで活躍している日本人のマンガ家さんもいる。

・・・考えるとなんだかワクワクする。これからももっと面白いマンガがたくさん読めるに違いない。

このブログではかねてから、アメリカで頑張る日本マンガ&日本マンガ家さんたちを応援していこうと勝手に思っているのだが、加えてとりあえずこれからもアメリカ産マンガとアメリカのマンガ出版社にも注目し続けようと思う。。。とは言え、管理人ceenaは全然先見の明が無いのだけれど。

前置きがとても長くなったが、今日のエントリーはPublishersWeeklyの3月28日の記事"Manga Still a Big Story at Dark Horse"から。アメリカのコミックス業界第3位の「ダーク・ホース」社のマンガ部門について取り上げた記事だ。

業界第3位と言っても大手であるマーベルとDCコミックスからはかなり大きく水をあけられているこの会社はマンガ専門の出版社ではないものの、昔からマンガにかなり力を入れている。「ダーク・ホース」が北米で出版するマンガは『攻殻機動隊』『トライガン』『ベルセルク』『ヘルシング』『ホワッツ・マイケル』『ゾンビ屋れい子』『無限の住人』『修羅雪姫』『首斬り朝』ナドナド…統一性があるのか無いのか、よくわからないラインナップだ。下に要約した記事では、「ダーク・ホース社はマンガの質にこだわって選んできております!」と仰ってらっしゃいます。頼もしいお言葉です。

ポートランドオレゴンを拠点とするダーク・ホース(DH)社は今年創業20周年を向かえた。その20周年の今年、20の新しいシリーズを加えることで、全部で70のマンガを出版する予定だ。アメリカ産人気マンガ『メガトーキョー』を失ってしまったが*1、古典、Jホラー、ハーレクイン・マンガ版など、DHにとってマンガはこれからも強力なカテゴリーであり続けるだろう。


↓『メガ・トーキョー』

Megatokyo #2(Megatokyo (Graphic Novels))

Megatokyo #2(Megatokyo (Graphic Novels))

攻殻機動隊:Man-Machine Interface』『首斬り朝』『修羅雪姫』のような評価の高い作品、そして著名な大作『子連れ狼』などを出版してきたDH社は、今年更にマンガの描き方を教える雑誌「SS(飛鳥新社)」の英語版や、士朗正宗『攻殻機動隊1.5』、小池一夫小島剛夕『半蔵の門』、池上遼一クライング・フリーマン』を出版リストに加えた。

DH社は何年もかけて自社が出版する作品のマンガ家とちゃんと関係を築いてきている。DHの宣伝担当ディレクター、リー・ドーソンはそう語る。「マンガ家が作品を所有しているのだから、DHはああしろこうしろとマンガ家に言うつもりも、検閲をする気もない。マンガ家の方たちがして欲しいように作品を扱っていく」

マンガ家志望のアマチュアが作品を投稿し批評してもらう季刊誌「SS」を日本で出版する飛鳥新社も、DHの出版する英語版にアメリカ人マンガ家が(ある基準に達してる作品を)投稿してくれることを期待している。DH社のエディターであり、マンガ研究者であるカール・ホーンは言う。「この雑誌から、日本では今マンガ・シーンはどうなっているのかを知ることができるし、そのマンガ・シーンの一部となることもできる」

DH社ではアメリカ産マンガ(OEL)を今後続けて出版していく予定は無いが、ドーソンによると、常にOELマンガの動向には注目しているらしい。「OELはDHにとってそんなに目新しいものではない」ドーソンはそう言ってDH社が2001年に出版したアダム・ウォーレンのSFコメディ『ダーティ・ペア』を挙げた。「これはDHが過去に出版し、成功した例だ。DHはいつも良い作品を探している」


↓90年代数少ないアメリカ人マンガ家の一人として有名だったアダム・ウォーレンの『ダーティ・ペア』

Dirty Pair Book 3: A Plague of Angels

Dirty Pair Book 3: A Plague of Angels

DH社がマンガを出版し始めたのは1988年に遡る。それは会社創設から2年後のことだった。マンガの翻訳・ライセンスを扱う「スタジオ・プロテウス」*2と密接に仕事をし、今のアメリカでのマンガブームが来るかなり以前から『アウトランダーズ』『3X3アイズ』『無限の住人』『あぁ女神さま!』などの人気作品を手がけてきた。

商業的成功を収めたマンガと高い評価を得ているマンガの両方のライセンスを得ることができたことについて、ドーソンは日本の出版社と権利者の双方との長期にわたる関係をきちんと確立したことを理由に挙げる。DH社の発行者マーク・リチャードソン以下スタッフたちは日本の出版社側とマンガ家に会うために度々日本を訪れている。このような関係(ホーンに言わせると“個人的な接触”)は日本の出版社と付き合う上で大きな役割を果たすのだ。「個人的な接触はとても重要だ」とホーンは言う。「出版社はDHの作品に対するプランやマーケティング戦略を知りたいと思っている。しかしその多くは個人的な関係によって作り上げられる」

ドーソンの意見では、アメリカでのマンガ市場の成長にもかかわらず、結局アメリカ市場は日本のマンガ出版社にとって後からついてくるオマケのようなものだ。何故なら日本のマンガ出版社は依然として完全に地元である日本のマンガ市場とアジアのマンガ市場だけしか目に入っていないからである。日本の出版社にとってアメリカ市場の売上は全体のほんの数パーセントにしかならず、アメリカでライセンスを買う側はその日本の出版社の注意を惹きつける努力を必要とする。

「日本の出版社は我々を必要としていない。アメリカ市場を必要としていないんだ」そうドーソンは言った後、あわてて付け加えた。「でもそれは彼らが我々を理解していなかったり、尊重していないという意味ではない。ただ日本で売れる部数とアメリカで売れる部数はあまりにも違う」

日本で人気のあるマンガは何百万部の単位で売れる。ベストセラー『ドラゴンボール』は1億冊を売り、『ワンピース』のような人気マンガは6千万部を超えた。これに対してDH社では人気作品『子連れ狼』が90万部、『ベルセルク』が12万5千部。アメリカのマンガ売上としては高い数字である。日本のヒット作と比べるとほんの少しだが、ドーソンによるとこれでも「以前のアメリカのマンガ売上ではありえなかった数字」ということだ。

DH社が力を入れているカテゴリーにホラーがある。人気ホラー『リング』は同名の映画がアメリカでリメイクされたこともあって、DH社から出たマンガ作品にも注目が集まった。しかし映画の後押しが無くても、Jホラーはそれ自体で魅力ある素材である。「Jホラーは新鮮だ。ハリウッドも同じように感じている。まだ活用されていない宝の山なんだ」とドーソン。


↓DH社英語版『リング』

The Ring Volume 1

The Ring Volume 1

『リング』の成功にあやかって、DH社は同様にハリウッドでリメイクの作られた『呪怨』の英語版マンガの権利も買った。そしてDH社は今年5〜6つのJホラーマンガを出す予定にしている。山崎トオル『たこ少女』、山崎峰水大塚英志黒鷺死体宅配便』などだが、ホーンは後者を「『スクービー・ドゥ』と映画『セブン』を合せた感じ」と形容した。


↓『スクービー・ドゥ』(・・・しかし『スクービー・ドゥ』と『セブン』って・・・)

Scooby-Doo: Space Fright! - Volume 6 (Scooby-Doo (Graphic Novels))

Scooby-Doo: Space Fright! - Volume 6 (Scooby-Doo (Graphic Novels))

アメリカのマンガ市場の成長に合わせて、DH社は扱う範囲を広げ、別のジャンルのライセンス獲得に乗り出している。「拡大するマンガ市場のおかげで、DH社としても扱うジャンルを広げ幅広い読者層を視野に入れることができるようになった」とドーソンは言う。より高い年齢層の女性読者を呼び込むことを考えているのだ。去年DH社はハーレクインロマンスのマンガ版を出版した。元々日本で作られ発売されていたものを、アメリカの英語マンガ市場のためにライセンスを取得したのだ。

過去10年間、日本でハーレクイン・マンガは良く売れていたが、アメリカ市場ではそうは簡単に行かないようだ。「普段ハーレクインを読んでいる読者がマンガ版を手に取るかどうかまだわからない」としながらも、ドーソンはハーレクインのブランドとそのブランドが内容の手がかりを与えることにより、読者の興味をひくことを助けていると言う。それでも、マンガと本は「違う形態なので状況は油断ならない」。

更にドーソンは言う。「我々は少女マンガの読者にこれもちゃんとしたマンガだと説明しなければならない。そしてハーレクインの読者にもこのマンガがハーレクイン読者がよく知っている愛とロマンスの物語だと教育していかなければならない」


↓DH社のハーレクインマンガ

Harlequin Ginger Blossom Violet Volume 3: Blind Date (Harlequin Ginger Blossom Mangas)

Harlequin Ginger Blossom Violet Volume 3: Blind Date (Harlequin Ginger Blossom Mangas)

ある出版業界人が心配しているのは、マンガ市場が急激に拡大しすぎて消費者が支えることの出来る消費量を超えているのではないかということだ。しかしホーンは楽観的である。アメリカの多様性を考慮すれば「マンガの楽しみ方もハマり方も色々ある」。更に一方でライセンス取得の競争は激化し、良い作品のライセンスは既に他社によって獲得されているという見方もある。しかしここでもホーンは賛成しない。「それは正しくはない。良いマンガはまだまだ出てくる」

ドーソンにとって、そのマンガが日本産であろうとアメリカ産であろうと、一番大きい関心事は出版する作品のクオリティだ。「今年は我が社の20周年にあたる。その間に新しい流行が生まれ、廃れていくのを見てきた。DHはマンガという流行に飛びついたのではない。我が社が多くの読者にマンガを紹介し、これからもマンガを読むであろう読者を開拓してきたのだ。DHはクオリティに拘りたい。結局流行が変わっても良いものだけは残り続けるから」

うわっ、書き終わったらものすごく長いエントリーになっちゃったよ。最後まで読んでくださってアリガトウです。

*1:管理人注:『メガトーキョー』2005年最も売れたアメリカ産マンガ。現在DH社から3巻まで発売されているが、2006年6月に発売される4巻からDCコミックスに移籍。

*2:管理人注:「スタジオ・プロテウス」アメリカでの日本のマンガ翻訳・ライセンスのパイオニア。社長のトーレン・スミスはあの『トップをねらえ!』に登場するスミス・トーレンの名前の元となった方。2004年に「プロテウス」の持つライセンスを含めて全てDH社に売却。現在はDH社の翻訳兼アドバイザー。