北米ファンによる違法翻訳コピーの行方。

今回取り上げるのは「アメリカでのアニメ・マンガファンによる翻訳コピーの流通」についての話題。

アニメに字幕を付けてネットで無料配信する「ファンサブ(fansub)」や、マンガの「スキャンレーション(scanlation/scanslation/scantillation)」などは、日本のファンの間でもお馴染みになった感のある言葉だが、最近ではアニメ・マンガだけでなくライト・ノベルや『月姫』『Fate/Stay Night』などのPCゲーム、ビジュアルノベルのファンによる翻訳「ファン・トランスレーション(fan translation)」も珍しくないようだ。

ちょっと気になって「ファン・トランスレーション」全般(「ファンサブ」「スキャンレーション」を含む)のことを色々調べだしたら止まらなくなってしまったので、今回はコピーされたプロパティの権利を保有する会社の対応に焦点をあてて、まとまってはいないけれどごくごく簡単に書いてみたいと思う。もちろんこのブログの話題なので、北米に限った話になるけれど。

お世話になっているULTIMO SPALPEENさんのブログで、Viz Mediaのイヴリン・デュボックさんのインタビュー紹介されていたが、ファンサブへのVizの厳しい立場を表明していてとても興味深い。

法律に関してわたしは全く詳しくはないが、法律を検証している記事*1を幾つか参照する限り(もちろんもっとたくさん文献や資料にあたる必要があるが)、「ファン・サブ」などの「ファン・トランスレーション」はやっぱりハッキリ違法だと思われる。アタリマエか

このブログでは昨年の12月に「北米アニメ販売会社、ファンサブグループに警告文」として、Funimationがファンサブグループに出した警告について取り上げているが、日本とアメリカの権利保有者たちがその権利を行使して行動に移した例は意外に少ない。

ちょっと調べただけなので抜けていることも多いと思うが、とりあえず大きな出来事としては以下の通り。

  • 1995年、アメリカのアニメ業界が"J.A.I.L.E.D(Japanese Animation Industry Legal Enforcement Division)"という団体を設立。海賊版の監視を行い始めた。(しかし何回かアニメコン海賊版を押収した記録はあるものの、1997年には既にその存在感はほとんど無くなっていた。)
  • 1999年、ASCIIが弁護士を通じてゲーム翻訳グループ・KanjiHackに翻訳を止めるよう要請した。
  • 1999年、Sony Visual WorksがDigital Anime Distributionというファンサブ・グループに『るろうに剣心』の配信をやめるようメールを出した。これがファンサブ・グループに対する業界からの初めての大きな警告となった。
  • 2000年、米バンダイがアニメ・コンベンションOtakon 2000で、ファンに『ガンダム』のファンサブを止めるよう呼びかけた。米バンダイは特定のファンサブ・グループに対して行動を起こすことはなかったが、それ以来コンベンションで違法コピーを押収するようになった。
  • 2004年、Media Factoryを代表する東京の法律事務所がAnime Suki、Lunar Animeなどのファンサブグループに配信を止めるよう要請した。現在までのところ、これが日本のアニメ会社によって取られた唯一の法的な行動である。
  • 2004年、講談社スキャンレーション・サイトSnoopycoolに翻訳マンガの掲載を止めるよう警告メールを出した。

海賊版」と「ファンサブ」などの「ファン・トランスレーション」の間には法的に見れば何の違いもない。しかしファンサブ・グループが主張する「海賊業者」と違う存在根拠は簡単にまとめると主に以下の2点。

  • 正規品の発売が途中で中止されたり、人気や古さなどの点で発売される見込みが無い場合、ファンは続き、もしくはその作品を見る機会が無い。この場合、ファンサブを作って流通させても日本、およびアメリカのアニメ製作・販売会社の利益を損なわない。
  • 人気作品の場合でも、正規品が販売されるまでにはタイムラグがある。その間にファンサブで作品の認知度を高めておけばファンの間で話題になり、宣伝効果になる。これはむしろアニメ製作・販売会社の利益となっている。

Wikipediaを含め幾つかの記事*2では「北米でのアニメ産業の黎明期」においては確かにファンサブの果たした役目は大きいと認めている。そもそも90年代に設立されたアニメ会社の創設者たちの多くが80年代にファンサブにかかわっていたらしい。確かに「アニメ産業の黎明期」は北米市場も今よりずっと小さく、ファンの普及活動なくしてここまで北米でアニメが認知されていなかっただろう。

しかし、現在はどうだろう?

当ブログでも「アニメ・海賊版・利益:ファンサブとの共存(CNNの記事より。)」でCNNの記事を取り上げたが、その記事によると、アメリカのアニメ業界がライセンス取得の目安にするなどして著作権侵害行為を行うファングループを利用し、そのグループたちと共存しているという稀有な例であることを伝えている。しかしVizの考えは違うようだ。

Active Anime によるVizのイヴリン・デュボックさんへのインタビュー記事より一部抜粋。

Vizがどの作品のライセンスを取るか決める際に、BitTorrentファンサブの流通に使われているソフト)などを使っていますか?

いいえ。

どのシリーズを買うべきかについて(ファンサブが)話題作りをすることで、業界を助けていると主張するファンもいますが。

アニメのような新しい商品にとって、海賊版というのは関係する全ての人にとって有害です。結果として価格はより高くなり、日本から最新の作品を持ってくる時に、その作品の多様性はなくなり、しかももっと時間がかかるようになります。今、北米でアニメはその成長と受容において重大な岐路に来ています。もう一度言いますが、わたしたちはファンに著作権侵害を奨励するのではなく、敬意をもって協力を求めていきます。

今も昔も業界にとってファンが大事なのは当然のこと。アニメの北米市場規模がファンサブ活動に依存しなくていいほど大きくなったかどうかは人によって意見がわかれるだろうが、Vizのデュボックさんの言うように、以前と少しずつ状況が変わってきているのも事実。これから各社の対応は変わっていくのだろうか?それとも…?

…いつか書く「続編」へ続く。。。。??

*1:"Progress Against the Law","Legality of Fansub"

*2:例えば『Dreamland Japan: Writings on Modern Manga』や、"Progress Against the Law"など。