北米アニメDVD売上不振の原因:業界サイトICv2の見解。

アメリカのアニメ・コミックス/マンガ・玩具・ゲームなどの小売店業界のための情報サイトICv2の発行する『アニメ・マンガの小売店ガイド/2006年第三四半期編(Retailers Guide to Anime/Manga #15 Q3/2006)』に、アメリカでのアニメDVD売上不振の理由についてのICv2の見解が述べられていた。

このアニメDVD売上不振については他の場所でも数々レポートされているし、その理由についても今までも色々なところで書かれてきているので、興味のある人にはこのガイドにあるICv2の見解はさほど目新しいものではないかもしれない。ただ今回は「ICv2による分析」ということで、ここにその要約を載せてみたいと思う。

参照:『Retailers Guide to Anime/Manga #15 Q3/2006』p.4-6.
青い枠で囲ってあるところが上記『Retailers Guide』本文の要約。その他はceenaによる追加。

『DVD Release Report』によると2006年の最初の5ヶ月でリリースされたアニメDVDの本数は17.2%のダウン。以前に発売されたことのある作品を新パッケージや新価格で再発売したものの数を入れると、ある業界人によれば「17.2%ダウンという数字より実際に新しく発売された作品はずっと少ないのではないか」ということだ。アニメのライセンス取得と新作リリースの減少は何が原因なのか?

<1.日本アニメDVDを扱っていた大手小売店の倒産>

DVD不振の最も直接的な原因は、日本アニメDVD市場のほぼ15%を扱っていた「サンコースト」の倒産だろう。

JETROの資料『米国アニメ市場の実態と展望2006年』によるサンコーストの説明(p.29)は以下の通り(下の抜粋はICv2の記事の中にはありません)

2006年1月12日に米国における日本製アニメやマンガの主要な流通を担ってきたサンコーストビデオの親会社ミュージックランドが連邦裁判所に破産法第11条に基づく会社更生を申請した。ミュージックランドは米国の大手家電量販店ベストバイが2001年に約7億ドルで買収した後、2003年サン・キャピタル・パートナーズに売却された経緯がある。サンコーストビデオは日本製のアニメやマンガを米国市場に浸透させることに大きく貢献した先駆的な小売チェーンであり、今後の動向が注目される。

玩具会社などと違って、この倒産の余波を受けて破綻したアニメ・マンガ会社は今のところないが*1、『鋼の錬金術師』や『バジリスク』など人気作品を抱えるFUNimationの親会社のNavarreはこの倒産により1千2百万ドル以上の損害を受けたと伝えられている

<2.市場に出るアニメDVDの急増とマンガの台頭>

2000年から2003年にかけて日本アニメのDVDのリリース数は急増し、2003年までには700を越えるDVDが発売されていた。これは最も熱心なファンにとってもその購買力をはるかに超えるものだった。そして同時期マンガがその売上を急激に伸ばした。マンガは多くのアニメ作品の原作であり、日本文化を消費するファンのお金を争う、アニメの強力なライバルである。

既に発売が準備されていたという事情もあって2005年のアニメDVDリリース数は伸びていたが、実際アメリカのアニメ業界は2004年末に起きた数多くの返品により、そのリリース数の伸びに反して2005年には既に“不景気”の状態に陥っていた。

商品が多く市場に出回り過ぎた供給過多の状態なのでは?という見解は、何もアニメに限ったことはない。先日このブログでも取り上げたように*2マンガでも同様な危惧がささやかれている。しかもアニメもマンガも北米ではファン層の平均年齢が日本より下と思われるため、購買力という点ではかなり限られているんだろう。

<3.ダウンロード>

カトゥーン・ネットワークなどでのTV放送で得た人気作品のアニメとマンガにおける売上の差異を唯一論理的に説明するのが、合法、違法を問わずダウンロードではないかと思われる。

『ナルト』を例にとると、昨年9月にカトゥーンネットワークで放送が始まって以来、そのマンガの売上の上昇は止まる気配がまったくない。1巻あたりでは、2番目に多く売れている作品のおよそ2倍の数字をあげている。しかしアニメとなると、ICv2が製作した総合的DVDランキングで1位ではないし、TVアニメに限定しても1位とはならない*3。このアニメとマンガの売上の違いには多くの理由があると思われるが、マンガのスキャンレーションがアニメのダウンロードより人気が無いことも原因の一つと考えざるを得ないだろう。

アニメ会社が、コアなファンのテクノロジー熟練性を利用しようとしているのは事実だ。ADVisionは違法アニメを多く流通させるBit Torrentソフトを使って無料ダウンロードを宣伝に使っているし、Vizもカトゥーン・ネットワークと契約し、TV放送の無いアニメも含めてダウンロードできるToonami Jetstreamを開始する。しかしセントラル・パーク・メディアを除くと、1話分ずつ有料でダウンロードするビジネス・モデル、ABCがiTuneと既に開始しているようなビジネス・モデルを採用するのに慎重だ。しかし多分業界がネットが提供するテクノロジーから利益を得られる唯一の希望がこの方法にあるとも思われるのだが。

ここでICv2はハッキリとiTuneなどで1話ごとにダウンロード販売する方法を業界に推奨している。昨年の11月に当ブログでも「アニメ、お持ち帰りです:NYタイムスの記事より」でセントラル・パーク・メディア(CPM)による配信サービス開始を伝える記事をを取り上げたが、配信サービスの1話当たりの価格は旧作アニメで1.99ドル。現在のレートで日本円にして230円ぐらいか。

更にICv2では日本アニメのDVDが他のアメリカのドラマなどに比べると値段が高いことも、ファンの購入意欲をそいでいるのではないかと見ている。

アニメの違法ダウンロードを行っているファンたちが、サポートすべき業界に損害を与えていることは間違いないが、その行動理由にはアニメDVDの平均単価がある。ライセンスの取得、吹替えにかかるコストがその主な要因だが、他のアメリカのDVDと比べるとアニメDVDの価格は高いからだ。

アニメ会社は限られた予算の中で、最新作をリリースするために既に所有する作品で利益をあげようとしてきた。かつて1枚ずつ出していたシリーズを更に安い値段でボックスセットにして売り出しているのだ。短期的にはこの方法は利益をあげている。

しかしある小売店主は言う。「業界は変わらなければならない。アメリカのTV番組のDVDにように“シーズン”毎にDVDを売ることを考えるべきだ」。しかしこれには問題がある。1枚ごとに売る高値のシングルDVDで得た利益がライセンス取得やダビングの費用を賄っていて、結局は更に安いボックス・セットをリリースするのを可能にしているからだ。

うーん。。。本当に難しい。。。

*1:倒産した会社は今のところないとは言え、老舗の「セントラル・パーク・メディア」などははこの影響を受けてかなりの営業不振となり現在再建中と言われている。

*2:「『ネギま!』『ツバサ』をアメリカで出版するDel Reyマンガ部門ディレクターのインタビュー(2)」

*3:ここで言われているランキングは「北米業界サイトICv2発表の2006年第2四半期アニメ・マンガトップ10」でどうぞ。ちなみに1位は『FF:Advent Children』