アメリカでハードコアなオリジナルBLマンガ雑誌創刊。

最近アメリカのマンガファンの間で話題の出版社がある。名前は「ドラマクィーン(DramaQueen)」。新興のBL(ヤオイ)専門のマンガ出版社だ。そのドラマクィーン」は今年の11月からオリジナルのBLマンガをメインにした隔月刊の雑誌を出版する。名前は「ラッシュ(RUSH)」。アメリカで初のオリジナルBLマンガの雑誌だと思うのだが、いくつか記事を見た限りでは「初」とは書いてなかった。

「ドラマクィーン」のサイト。
雑誌「ラッシュ」のサイト。(←掲載マンガの絵柄がチェックできる)

「ラッシュ」創刊号は第1号ではなく0号。オリジナルBLマンガが4作品掲載される。その4作品のうちの一つ、『ナイト&デイ(Night and Day)』のあらすじ↓。

アダーは時間給で働くプロの男娼。ある日、一生に一度のチャンスがやってくる。彼の客が自分の弟でアニメオタクのジンを普通の紳士に変えてくれたら200万ドル(2億円以上)払う、と言うのだ。

できすぎてる?そう、良すぎる話はたいていそんなに簡単には行かない。ジンは自分の趣味を捨てる気は毛頭ないのだ。アダーは手を引こうとするが、契約を見直したところ、既に失敗は許されないことがわかる。

果たしてアダーは運命の賭けに勝ち、ジンを立派な社交家へと変身させることができるのか?それとも失敗して、ジンの悪魔的妹のため夜も昼も奉仕することになるのか?

アメリカでは少年マンガ、少女マンガに続く新しいジャンルとして脚光を浴びるようになったBL/ヤオイだが、アメリカではマンガ市場というニッチの中の更にニッチな市場。しかし読者数は多くは無いものの、忠実なファンが多いということで、BLはオンライン*1、また専門店を中心にそれなりの商業的成功を収めていると言われている*2

以前はマンガ出版大手の「トーキョーポップ」や老舗の「セントラル・パーク・メディア」などがBLマンガに別のレーベルを付け、それぞれ「Blu Manga」、「Be Beautiful Manga*3」として出版するなど、マンガ出版社の一部門としてBLマンガが出版される傾向があったが、最近はBLをメインとする新興の出版社「ヤオイプレス(Yaoi Press)」や「ドラマクィーン」など、日本産だけでなくオリジナルのBLマンガを出版するところが、ファンの熱い注目を集めている。

以前アニメ!アニメ!さんの「イタリアのやおいマンガ アメリカで発売(7/29)」で取り上げられていたが、BLマンガに限らず出版権の高騰などで新興の弱小出版社は特に日本産に手を出せない事情もあるだろう。しかし最近の英語圏のネット上での新興BL出版社に対する盛り上り方を見ていると、経済的な問題に加えて、北米ではコミケなどの同人誌即売会に特化したイベントが無いという事情もあって、表現に対する強い欲求も見える気がするのは、マンガ好きの気のせいだろうか?*4

冒頭で名前を出した「ドラマクィーン」が話題の理由は、その会社が18禁のBLマンガを専門にしているため*5アメリカでは日本よりマンガ(コミックス)の性的表現に対して厳しいので、特に大手になるとハードなBLには手を出さないのが現状だ。トーキョーポップから出たBLマンガ『フェイク』などはかなり良い売上だったらしいが、『フェイク』には激しい性的表現はない。その中で「ドラマクィーン」はかなりハードなBLを出版し、堅実に売上げを伸ばし、商業的にも採算が取れているらしい(採算が取れているというのは、マンガの中小出版社では珍しいようだ)。

Publishers Weekly(8月15日)の記事「DramaQueen Hustles for Yaoi Fans」では、カナダのある書店の店長の話として、「ドラマクィーン」の出版する本は「翻訳や本の製本が素晴らしく、売上も安定しています。最初から他の出版社より良い感じでした。会社が作品を愛しているのがよくわかります」という発言を引用している。

「ドラマクィーン」は「ステキなオトコのセックス調達人」を自認し、モットーは「もっとハードに、もっと速く、もっと安く」だそうだ。この会社を設立したのは、自分自身がBLの熱いファンだった元弁護士トラン・グエン氏。クレジットカード限度額までお金を使い、家族も巻き込んでこのビジネスに入ってきた。グエン氏だけでなくスタッフ全員がBLファン。


↓「ドラマクィーン」出版の英語版『裁かれし者』(本間アキラ)

The Judged

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*1:例えば「ドラマクィーン」の作品の多くは大手一般書店であるBarns&Nobleなどでは店頭には並ばず、Barns&Nobleのオンラインショップのみで売っている。

*2:ICv2「オンラインで強いヤオイ作品"Yaoi Titles Strong in Online Sales"

*3:「セントラル・パーク・メディア」の「Be Beautiful」レーベルはその会社の経済的問題により、新しいライセンス取得は無いと見られている。

*4:同人誌の即売会などはあまりないものの、英語圏では日本よりウエブコミックが盛んだ。英語圏のウエブコミックについても、いつかこのブログで取り上げるつもりです。

*5:「ドラマクィーン」はハードBLマンガが専門となっているが、ハードではないBLマンガも出版しているし、台湾や韓国の少女マンガの出版権も獲得している。