英語であのセリフはどうなってる?英語版『サルでも描けるまんが教室』。

相原コージ氏・竹熊健太郎氏のサルでも描けるまんが教室』の「21世紀愛蔵版」は発売そうそう重版決定ということだそうです。両先生方、おめでとうございます!猿島で開かれた記念オフ会+サイン会レポートも竹熊氏のブログにまとめられています。いや〜、インパクトある写真が一杯です!

不勉強ながらわたしは、この「21世紀愛蔵版」で初めて『サルでも描けるまんが教室』通称『サルまん』を読んだのですが、今読んでもその熱さはすごいです。そこで今回は『サルまん』の英語版『Even a Monkey Can Draw Manga』1巻を「英語であのセリフはどうなってる?」として取り上げたいと思います。『サルまん』の最初の単行本と「新装版サルまん」は持っていないので、ここで英語版と比較しているのは「21世紀愛蔵版」となります。

Even a Monkey Can Draw Manga VOLUME I (Even a Monkey Can Draw Manga Series)

Even a Monkey Can Draw Manga VOLUME I (Even a Monkey Can Draw Manga Series)

英語版は2002年に発売開始。絵は反転されて左開きです。題名の『Even a Monkey Can Draw Manga』の日本語直訳は『サルでもまんがが描けるのだ』みたいな感じ。

わたしの手元にあるのは英語版1巻だけで、その1巻は「Lesson 29.持ち込み雑誌別攻略法」で終わっています。でも以下の章は入っていませんでした。アメリカでは内容が通じにくいという判断があったんでしょうか?

  • Lesson 15.ウケる風刺まんがの描き方
  • Lesson 18.ウケる動物まんがの描き方
  • Lesson 20.ウケる学習まんがの描き方
  • Lesson 22.ウケるウンチクまんがの可能性
  • Lesson 23.ウケるロックまんがの可能性
  • Lesson 24.ウケる老人まんがの可能性
  • Lesson 26.ウケる隠し味①楽屋オチ
  • Lesson 27.ウケる隠し味②トレンド

それではここから、英語のセリフを取り上げます。そこでやっぱり気になるのはアレ。

ちんぴょろすぽ〜ん

は、英語でどうなってるか。

CHIN PYORO SUPOONN

まったくそのまんま(笑)ですね。

それじゃぁ、あの

イヤボーンの法則

は?

The rule of "NO, BOOM."

こちらは直訳。「イヤ→No」「ボーン→BOOM」。


サルまん』には日本語の語呂合わせのだじゃれも沢山出てくるので、翻訳は大変だったと思います。

例えば「そんなバナナ!」のギャグ*1は竹熊博士によると、「そんなバカな」の「バカな」のかわりに「バナナ」を入れ、響きが似ているが意味はまったく違うところで錯覚をおこすギャグです。でもこれは直訳してもそのギャグの意図は通じません。

色々訳し方があると思います。ギャグとしての瞬発力は無くなっても、この場合は響きが似ていることが重要と考えて日本語のローマ字読みを載せ、訳註で説明するという手もありますね。でもこの英語版プロフェッサー・タケクマは「どこへ行くの?(Where are you going?)」と聞かれた時の返答のギャグとして「バナナ!」と叫び、本来目的地を聞く質問に対して予測外の言葉である“バナナ”と答えることで「going bananas(頭がおかしくなる)」にかけたギャグだと説明しています。

他にも「内容はないよー」というギャグ*2の場合は、日本語直訳(「内容が無い)」となっていて「内容」と「ないよー」のだじゃれの部分はなくなっています。

今度は他のセリフを「Lesson 9. ウケる少女マンガの描き方」(86ページ)から。英語版のセリフはほぼ、日本語版オリジナルの直訳となっています。

少女まんがにおける、ウケる主人公 それは…ドジだ――――っ!!

The appealing heroine of a truly popular shojo mang must be...CLUMSY!

「ドジ」は英語で「clumsy」です。だいたいどのドジっ子も英語で「clumsy」と訳されています。

そして少女まんがにおいても、ウケるストーリー展開はただ一つ!!

Like Shonen manga, there's only one story that really works for shojo manga!!

「ウケる」が「work」になってます。「work」は「働く」という意味もありますが、こういう使い方の場合は「うまく行く」などの意味です。

主人公が「ちこくちこく」と叫びながらあわてて家を飛び出す(ドジだから)のだ!これ以外ウケる出だしはあり得ない!!さらに重要なのは、このとき主人公は必ず口にトーストをくわえているのだ!

The heroine screams, "I'm late! I'm late!" while running out of her house (because she's clumsy)!! There are no alternatives to this beginning!! Another important detail: She has to be chewing on a piece of toast!!

「there are no alternatives to 〜」という言い方は、直訳すると「〜にとって代われるものは無い」という感じになり「〜より他はない」と言いたい時に便利な表現です。

そして主人公は道で誰かにぶつかって恥をかく(ドジだから)!!その誰かとはもちろんロッカーだ!

Then she bumps into someone by mistake (because she's clumsy)! And that someone is, of course, the rocker!!

「bump into」は、その直後に「人」を表す名詞が来ると「衝突する、ぶちあたる」の意味の他に「ばったり出くわす、偶然会う」という意味にもなります。

そしてなんとそのロッカーも「少年まんが」と同じくやはり転校生だったのだー!!

And whaddya know, the rocker is a new transfer student- just like the hero in shonen manga!!

「whaddya know」は「what do you know」の短縮形。こういう短縮形は向こうのマンガにはよく出てきます。この「what do you know」には深い意味はなく、驚いた感じを表す言葉で「驚くなかれ!、まさか!、やった!」といった感じ。「転校生」は「transfer student」ですね。

また一歩、野望に近づいた!!
We're one step closer toward achieving our dream!!

「一歩」のところを「二歩」「三歩」にするには「one step」のところを「two steps」「three steps」にすればオッケー。


ところで、ちょっと前にこの『サルまん』の英語題名『Even a Monkey can Draw Manga』をもじった『Even a Gaijin can Draw Manga』という英語のブログの記事を読みました。『サルまん』風に訳せば「ガイジンでも描けるマンガ教室」と言ったところでしょうか。記事の内容は北米での非日本産マンガについてのもので『サルまん』に関係ありませんが、ちょっと面白かったので取り上げてみました。

*1:サルでも描けるまんが教室:21世紀愛蔵版』(小学館刊。「Lesson.5 アイディアの出し方」52ページ。

*2:同上。「Lesson.19. ウケるエスパーまんがの描き方」146ページ。