アメリカ人マンガ家のコラム:アメリカでマンガ雑誌がもっと出て欲しい。

以前から時々取り上げているアメリカ人マンガ家タニア・デル・リオ氏のコラム「リード・ディス・ウェイ(Read This Way)」*1

今回はその最新記事「増殖するマンガ(Multiplying Manga)」について。この記事でリオ氏はアメリカでもっとマンガ雑誌を読みたいという彼女の希望について書いている。元々のコラムの記事がそれなりに長いので、ごく簡単にまとめると、

日本と比べて市場規模の小さいアメリカでも、今のペースで単行本が出続けると、どんなに色々なマンガが読みたくても経済的に限界がくる。マンガ雑誌なら一度に複数のマンガを比較的安く読むことが可能になるので、アメリカでもっとマンガ雑誌が出ればいいのに!

ということだ。以下はもう少しだけ長めの要約。

現在書店に行くと、マンガ用の棚スペースはどんどん広がっている。個々の作品数が増えているだけでなく、作品の巻数もどんどん増えている。本来なら、これは自分にとってまさに夢の実現だ。かつて日本の本屋さんに並ぶ膨大なマンガの写真を初めて見た時、羨ましくて仕方がなかった。もちろん、日本とアメリカのマンガ状況は現在でも比較できるものではないが、それでもアメリカのマンガ状況も無視できないほどに拡大し、日本に近づいているようである。

しかしこの事態を喜んでばかりはいられない。今度は自分の財布の心配をしなければならないからだ。

魔法騎士レイアース 』『MARS』『ピーチガール』など、少女マンガが最初にアメリカで発売され始めた頃、わたしは手に入る全てのマンガを買いあさり、少女マンガへの支持を表明した。その頃はこんなに少女マンガが人気になるとは思わずに、少女マンガというだけで傑作とは言えない作品にもお金をつぎ込んだ。

しかしついにわたしも理解した。発売されている全ての少女マンガを買うのは不可能だ。そしてわたしも最近では、いったん買い始めた作品も途中で買うのを止めたり、最初から買うのを諦めたりしている。あまりに作品数が多く、消費者として選択しなければやっていけない。

きみはペット』『デスノート』のように何があっても買うマンガはあるし、お金に余裕がある日や、気分で新しいマンガに手を出すこともある。でも今では未知の作品を買い始めることにとても慎重になっている。興味があるマンガは沢山あるが、買い始めるとそのシリーズが終わる頃には数百ドル(数万円)使うことになりかねない*2

そこでまたわたしは日本のマンガ市場を羨ましく思うのだ。日本にはぶ厚いマンガ雑誌が色々ある。だからわたしはVIZから発売されている『SHONEN JUMP』『SHOJO BEAT』*3をとても気に入っている。安い購読料で複数の作品を読むことができるからだ。現在のわたしのお気に入りは『NANA』。今のところ月毎に読む分量で満足しているが、いつか単行本を買うこともあるだろう。

次の単行本が出るまで数ヶ月待つよりも、前に何が起こったか忘れる前に毎月少しずつ読むほうが良い。それに正直に言って『SHONEN JUMP』『SHOJO BEAT』の中には単行本は絶対に買わないけれど楽しんで読んでいる作品もいくつかある。

わたしは(アメリカにも)こういうマンガ雑誌がもっとあればいいと思うし、お金をかけずにもっとたくさんのマンガを読みたい。日本式のぶ厚いマンガ雑誌アメリカで出版することが、翻訳などの手間を考えると日本ほど安くできないことは、わたしにもわかってはいるのだが。

Tokyopopが最近幾つかの作品を「ネット限定発売」にすると発表して反対を受け、後にその計画を見直したことがあった。わたしも自分の好きな作品がネット限定になるのは寂しいが、毎月多くのマンガを出版するTokyopopがその計画を立てた理由はよくわかる。では、単行本を出す代わりに、超人気タイトル以外を集めて雑誌として出すというアイディアはどうだろう?

わたしは物事を単純化しすぎているのかもしれない。あくまで個人的な意見だが、わたしだったらマンガ3巻(訳者註:向こうの単行本の平均を考えるとだいたい30ドル強)を買うよりも、5話ずつ入ったマンガ雑誌6ドルを5冊買ったほうが良い。しかもその雑誌のマンガが単行本で手に入らないとなれば余計購買意欲も増す。

しかも雑誌は非日本産マンガを広めるのにも良いやり方だと思う。DramaQueenが非日本産BL雑誌『RUSH』*4を隔月で発売すると聞いてとても嬉しかった。

普通日本以外のマンガ家はアシスタントを持たない。そのため次の巻の発売まで1年近くもかかることがある。『ドラマコン(Dramacon)』の2巻を待っているのはわたしだけではないだろう。もし非日本産マンガが月刊や隔月刊の雑誌になっていれば、読者の元に作品が届くのも早くなり、ファンを増やすことができるのではないだろうか。

ここに書いたのはわたしのマンガファンとしての意見だ。雑誌を定期的に発売するにはきっと、わたしが見逃している様々な問題があるのだろう。でもいつかマンガ出版社がアメリカでもっとマンガ雑誌を発売することを考えてくれるといいと思う。その時まで、わたしを誘惑するたくさんの新作から眼をそむけ、今買っているマンガだけに誠実でいることにしよう。

現在アメリカで発売されているマンガ雑誌はVIZの『SHONEN JUMP』『SHOJO BEAT』、それに非日本産マンガの雑誌としてこれから出版予定なのが、eigoManga/Devil's Due Publishingの『Ramble Pakk』(月刊誌)『Sakura Pakk』(季刊誌)、そして上の記事にもあるようにDramaqueenの非日本産BLマンガ雑誌『RUSH』(隔月刊)。

追記:Icarus Publishingから出版されている日本のエロマンガだけの雑誌『AG』もありました。

↓タニア氏も新作を待っている『ドラマコン』1巻。発売は2005年10月30日。

Dramacon Volume 1

Dramacon Volume 1

↓『ドラマコン』2巻。発売は2006年10月30日。1巻の発売のちょうど1年後だ。
Dramacon Volume 2

Dramacon Volume 2

ちょっとだけ『ドラマコン』あらすじ。
主人公のクリスはアメリカの高校生。ある日クリスは彼氏と友だちのカップル4人で人生初めてのアニメ・コンにやってくる。彼氏のデレクと2人で作ったマンガ同人誌を売るためだ。初めてのコンに戸惑うクリスを助けるどころか、コスプレ美女に声をかけることばかり考えるデレクに、クリスの不満が爆発し大喧嘩。勢いで自分の売り場から駆け出したクリスは、ひょんなことから口が悪いけどカッコ良いマットと出会って…というお話。

*1:「「Manga」論争について(1月6日)」と「アメリカの少女たちは日本の少女マンガを理解できるのか?」(2月27日)。

*2:訳者註:アメリカのマンガ単行本は会社や作品によっても違うが、だいたい10ドルから15ドル。つまり現在のレートで1000円強から1800円。

*3:訳者註:『SHONEN JUMP』『SHOJO BEAT』は共に月刊誌。1年間の購読料は現在『SHONEN JUMP』が29.95ドル(現在のレートで約3500円)『SHOJO BEAT』が34.99ドル(約4100円)。

*4:『RUSH』については当ブログエントリー「アメリカでハードコアなオリジナルBLマンガ雑誌創刊」(8月28日)をご覧ください。