アメリカで急増するヤオイマンガ。

アメリカで行われる数あるアニメ・マンガのコンベンションのうちで、一番長い歴史を持つヤオイ/BLを専門とするコンベンション『ヤオイ・コン(Yaoi-Con)』。

サンフランシスコで10月20日から22日まで行われ、現在英語圏の数々のニュースサイトやブログでこの『Yaoi-Con』についてのレポートがアップされている。

今回はその中の業界向けサイトICv2による「急増するヤオイ(A Yaoi Explosion)」(10月25日)と、PublishersWeekly「増えるヤオイ出版社(New Publishers, More Titles at Yaoi-Con 2006)」(10月24日)の要約。

まずICv2の記事の要約。

この記事でヤオイ/BL以外で目を引くのがDigital Manga Publishingによる“OJEL”(Original Japanese English Language)マンガの発表。日本のマンガ家さんによるアメリカ市場向けに描かれたマンガということで、当然日本よりも先にアメリカで発売されるとのことだ。

今年で6回目を数える「ヤオイ・コン」では、ヤオイを出版する出版社からアメリカでのヤオイ・マンガ史上前例のない数の出版及び・ライセンス取得が発表された。

Digital Manga PublishtingはそのJUNEレーベルのもと13作品の出版を発表。そのうちの1作品はBLノベル。更にOJEL(Original Japanese English Language)として、日本のマンガ家によるアメリカ市場をターゲットにしたオリジナルBLマンガの製作も発表された。

Digital Manga PublishingではJUNEレーベルよりも過激な性的表現を含むヤオイ作品向けの801Mediaレーベルをたちあげ、2007年度内に7作品を発売予定にしている。

Dramaqueenは新たに3作品の発売を発表。自社HPで連載するオンライン・ヤオイマンガも発売予定のYaoi Pressはイタリア産ヤオイ作品のライセンスを数多く獲得、そして2007年には15作品を出版する。ヤオイレーベルの老舗とも言えるCentral Park MediaBe Beautifulレーベルは、2007年にその出版数をかなり増やし1ヶ月に1作品のペースで出版予定。そしてBroccoli Books USAヤオイを扱うレーベルをたちあげることを計画中。


結局このヤオイ/BLタイトルの増加は「出版社が成長する市場を嗅ぎわけ、その市場が消化できる以上の数の作品を投げ込んでいる」というよくあるケースなんだろうか?どうもそれは違うようだ。ダイアモンド・ブック・ディストリビューターズのクオユ・リアン氏はICv2に「今のところ市場はほぼ全てのヤオイ作品を歓迎しています。多くの新タイトル発売がヤオイ・コンで発表されましたが、DMPを初め少なくとも多くの出版社の一月あたりの出版数はかなり保守的です」と語った。

多様なヤオイ作品の出版は読者にとっては喜ばしいことだ。しかしある時点で出版点数の増加が市場の成長を追い抜き、個々の作品あたりの売上が落ちる、という事態に出版社は直面しなければならなくなるかもしれない。

その上、もっと基本的な別の要因がアメリカでのヤオイ成長を失速させるかもしれない。例えばTokyopopBlu MangaレーベルDigital Mangaの801 Mediaのように、より多くの出版社がより過激な性表現を扱うマンガを出版するようになると、「検閲」という言葉の黒い影が見え隠れするようになる。TokyopopDigital Mangaも共に、少なくとも今のところHPから直接Blu Mangaと801 Mediaのページにリンクしていない理由がこれだ。

既にいくつかの大手書店はたとえビニールで包まれていても「18歳以上対象」の作品を扱うのにしり込みしている。一方でファンは露骨な表現の作品も求めていて、出版社と書店は常にリスクを抱えている。

上記のICv2の記事にPublishersWeeklyの記事から少し補足。

Digital MangaのJUNEレーベルから発表されたタイトルのうち、一番観客の反応がよかったのがBLノベル『間の楔』(吉原理恵子)。BL小説の需要はかなりありそうだが、翻訳コストその他の理由で出版がなかなか難しいらしい。

ただ新興ヤオイ/BLマンガ出版社Iris Printは、オリジナルのヤオイマンガを出版するだけでなく、オリジナルのノベル出版も計画している。Iris Printは10月中にオリジナルのBLマンガ・アンソロジーとBL小説アンソロジーを出版した。現在は投稿も募集中。

性的表現に関わるリスクについては、少なくとも一つの本屋はヤオイ/BL本を置くリスクは報われていると感じているようだ。オレゴン州ポートランドの本屋「Borders Express」のバイヤー、フェリシア・ラム氏は自分がファンであることもあって、DramaQueenなどの小さなヤオイ出版社から本を注文し始め、現在では棚にかなりの数を揃えた。ラム氏は否定的な反応を受けたことがないと言う。書店周辺に住むファンはその品揃えに感謝し忠実な顧客になってくれている、とのこと。店長は「歩合制できみが本を売ってたら、大金持ちになってたよ」と言ったとか。

ヤオイ・コン」の広報担当のエイプリル・グィティアレス氏はこう語る。「6年前このコンを始めた時、こんなにたくさんの出版社が将来集まるって言われても、信じなかったと思う。今では軽めのものからハードコアのものまで色々なヤオイがここにあって、自分の欲しいものはここで誰かが満たしてくれる」

ヤオイの勢いに載って現在アメリカでは「百合」も静かに人気を集めている。この話題はまた今度。

↓今回の「ヤオイ・コン」でアメリカでの出版が発表された『恋はいつも嵐のように』。英語版は801 Mediaから出版。題名は『Love is a Harricane』。

恋はいつも嵐のように 1 (光彩コミックス)

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↓JUNEレーベルから発売される『間の楔』ノベル。英語題名は『The Space Between』。

間の楔〈5〉長い夜 (クリスタル文庫)

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