北米マンガ市場2006年総括。
今回は、業界向けニュースサイトICv2の発行する「ICv2マンガ・ガイド:2007年第一四半期」から、北米の2006年度マンガ売上についての総括記事の要約を載せたいと思います。
長い記事なので、これだけ読めば内容が掴めるという「短い要約」から。
北米での2006年度の正確な数字はまだ出ていないが、去年は『ナルト』人気などもあってマンガの売上は全体としてアップした。その他の2006年の傾向は以下の通り。
- 売れるマンガと売れないマンガの二極化。
- ノベルの売上増加。
- BLの売上増加。
- 非日本産マンガの健闘。
それでは「長い要約」です。
2006年12月のホリディ・シーズンのマンガの売上について、ICv2がインタビューしたいくつかのコミックス専門店の反応は“例年になく良かった”“格別によく売れた”というものだった。
ホリディ・シーズン前後の売上もかなり良く、これは主な読者である若い消費者がその頃ちょうどお小遣いや図書券などをプレゼントとしてもらっていることが影響していると思われる。北米では比較的マンガの読者層が若いので、本来需要はあるのにその購買力不足がそのまま市場規模に反映しているのかもしれない。
限られた購買力は、新しいマンガを市場に投入してもなかなかその読者を確立できないでいることへの、少なくとも部分的な説明にもなっている。予算が限られているので、読者は面白いかどうかわからない作品に手を出すリスクを冒しずらいのだ。
正確な数字は「ICv2マンガ・ガイド」次号を待たなければならないが、2006年のマンガ売上は一見してとても堅調だったと言える。BookScanによる数字を見ると『ナルト』が2005年度の売上の35%増を達成したのを筆頭に、2005年度には4作品だった5万部を超えるタイトルが、2006年度には13に上昇した。一方で売上の数字は一部の人気作品に偏る傾向も見られ、売上トップ50のリストの最後尾の作品と『ナルト』では14倍の差がついている。
この偏りにもかかわらず、出版社は2007年には更に多くの作品を出版する計画をたてている。そのため、一般書店とコミックス専門店の棚スペースをめぐる熾烈な戦いは2007年に入り更に厳しくなる見通しだ。加えて、2006年にはマンガではないグラフィック・ノベルの売上にも目覚ましいものがあった。
<北米でのマンガの出版点数>
2005年 2006年 2007年 1026 1224 1461 このように新しいマンガが次々と出版されるようになると、小売店側は連載が終了している作品の在庫を抱えるのが難しくなってくる。その結果古くても良い作品を売る機会がなくなり、若い読者がこれらの作品に触れる機会が減ってしまう。
そこで、古典的作品を新しい読者に販売しようとする試みが行われるようになった。例えば今はないEclipseから出版されていた『Appleseed』をDarkHorseが出し、Tokyopopの『寄生獣』をDelReyが新しく出版したこともその一部だ。
2006年のマンガ市場の明るい傾向として、既に人気のあるシリーズの第1巻が再び売れ始めたことが挙げられるだろう。これは作品の新規読者が増えたこと示している。現在市場を支配している『ナルト』の第1巻(訳者註:北米で『ナルト』1巻が最初に発売されたのは2003年8月)や『Bleach』『鋼の錬金術師』『フルーツバスケット』『デスノート』の第1巻も出版からかなりたってまた売れ始めた。
2006年に見られたもう一つの傾向は、アニメ・マンガ関連ノベルへの関心の高さがある。イラスト付きであってもなくても『ナルト』『バンパイアハンターD』『.Hack//』『鋼の錬金術師』のノベルは一般書店で特に良い売上を示した。2007年に発売予定のノベルのタイトル数は2006年の2倍以上となっている。
<アニメ・マンガ関連ノベルの出版点数>
2006年 2007年 38 78 ノベルの売上は好調だが、更に健闘したのはBL・ヤオイ作品だ。ICv2がインタビューした小売店によると、BL・ヤオイには強い女性固定客が付いているということだった。潜在的に検閲の対象になりかねない問題を抱えているものの、2007年発売予定のBL・ヤオイ作品は2006年の2倍となっている。
BL・ヤオイ作品と同様に議論を呼んでいるのがOEL(Original English Launuage)マンガ*1である。韓国のマンガは極端な一部のファンを除けば受け入れられているものの、アメリカ産、そしてヨーロッパ産に対しては今もマンガファンの間に根強い偏見が存在する。しかし長年にわたる強い反発にもかかわらず、ゲームが原作の『Warcraft』、オンライン・マンガの『メガトーキョー』など一部のOELマンガは「トップ50マンガ」リストに入り続けている。
非日本産マンガに対する抵抗は、日本のマンガの国際化を無視しているかのようだ。日本人やフランス系ベルギー人のマンガなどを巻き込んだ“ヌーベル・マンガ”の動きは今現実に起こっている文化の相互的繁栄の一つの例である。国を超えたマンガ製作の動きは北米では今のところ大きくはないが、既にオルタナティブ系のコミックスにはその影響が見られ、これから広がっていくだろうことは間違いがない。
次回は「北米アニメ市場2006年総括」です。(更新はたぶん明後日以降になります。)
*1:OELマンガ:このブログを読んでいる人にはお馴染みの言葉ですが、「OELマンガ」とは最初に出版された時の言語が英語であるマンガを指しています。一般的に英語圏で初めて出版されたマンガを指しますが、非日本産マンガの総称として使われることも多いです。同様にアメリカで最初に発売されたマンガを、アメリカンとマンガを合わせた「アメリマンガ」と呼ぶこともあります。ただアメリカで初めて出版されても作者自身は非アメリカ人であるケースや、非英語圏で最初に発表されたマンガをアメリカの大手が英語で出版するケースもあり、最近では「OELマンガ」「アメリマンガ」に代わって「ワールド・マンガ」または「グローバル・マンガ」と呼ばれることが多くなってきました。ちなみに「ワールド・マンガ」という言葉を最初に提唱したのはアメリカの新興マンガ出版社Seven Seas Entertainment社、「グローバル・マンガ」はTokyopop社であると言われています。