米マンガ出版社が出すオリジナルマンガをめぐる話題。
毎回毎回自分の体調談義でブログを始めたくはないのだが、それにしても今回の風邪はひどい。最初に熱が出てからほぼ1ヶ月。1週間毎に症状が変って、高熱、鼻水、咳、などまったくウンザリ。それもこれも日々の不摂生のたまものかも。
さて…
少し前のことになるが、アメリカの大手マンガ出版社DelRey社が自社で製作したマンガを出版すると発表して、アメリカのマンガ関連のブログ界隈でかなり話題となっていた。
今回の記事はそのオリジナルのマンガをめぐる英語圏のマンガ関連ブログ界隈での盛り上りについて。最近ではアメリカのマンガ出版社が日本産マンガのライセンスを得て出版するのではなく、オリジナルのマンガを出版するのは珍しくない。それなのに何故Del Rey社の発表がこんなに話題になっていたのか。いくつか理由があると思うのだが、個人的に主な理由と思われるものを下にまとめてみることにした。
今回オリジナルマンガを出版すると発表したのはアメリカのマンガ出版社Del Rel社。DelReyは大手出版社ランダムハウスの傘下にあり、ランダムハウスが2003年に講談社と提携したことでDelReyのマンガ部門は講談社系のマンガを主に多く出している。
Del ReyはVIZやTokyopopと比べるとアメリカでのマンガ市場への参入は遅く、マンガの出版点数も多くはないが、良質なマンガを出す出版社として、またファンの声に耳を傾ける出版社としてファンの評判は高い。主な出版作品は『XXXHOLIC』『ツバサ』『ネギま!』『蟲師』『のだめカンタービレ』『黒鉄』など。
他のマンガ出版社には日本マンガのライセンス料の高騰などの理由で、自社でマンガを作ろうとする動きはあったが、集英社&小学館の作品を出すVIZ(VIZは集英社と小学館が半分ずつ出資している)と、講談社からの作品を主に出すDelReyは今まで本格的に自社製のマンガ出版に乗り出したことはなかった。そのため今回のDel Reyの発表はファンを驚かせたのだ。
これでアメリカの大手マンガ出版社で、オリジナルマンガを出版していないのは、米版『ジャンプ』を出版するVIZだけとなった。(VIZは以前、“将来はオリジナルマンガを作ることも考えている”と言っていたこともあるが、現在はその計画はないようだ。ただ商業的な作品ではないが、世界銀行と組んでオリジナルのマンガを作ったことはある。)
2.10代に人気のある歌手を使った企画。
今回のDelReyの発表で、DelReyの初オリジナルマンガ『Make 5 Wishes』には人気歌手アヴリル・ラヴィーンが、スタッフとして参加することが明らかになった。ラヴィーンは10代から20代前半の女の子に人気のあるロック歌手。2002年のデビューアルバムは世界で2千万枚を売上げ、その年のグラミー賞にもノミネートされている。今年の4月に発売される『Make 5 Wishes』では、ラヴィーンはクリエイティブ・スタッフの一人として参加するだけでなく、キャラクターとしても登場するということだ。
以前にもTokyopopが、歌手コートニー・ラヴ監修の自伝マンガを出版したことがあったが、ここやここやここで述べられているように、このコートニー・ラブのマンガ『Princess AI』の売上が良かったのでDelReyはその真似をしたのではないかと受け止めるファンが多い。そしてそれが一部のファンの反感を買ってしまったようだ。
↓Tokyopopの『Princess AI』。マンガ家さんは日本人の鯨堂みさ帆氏で、原作者DJ.Milky氏はTokyopopの社長さん、スチュゥアート・レヴィー氏の別名。
Princess Ai Volume 1: Destitution
- 作者: Misaho Kujiradou,D.j. Milky
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2004/07/01
- メディア: ペーパーバック
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今までマンガを読んでこなかった層に売るために、人気歌手を使うというのはあまりにも商業的であり、どうせラヴィーンの名前を借りただけのお粗末なものになるのはわかりきっている、というのがその反応だ。ただし今回のファンの反応を受けてDel Rey側や作者側はブログのコメント欄に登場したり、マンガ関連サイトの緊急インタビューに応じたりと機敏な対応を見せ、その甲斐があったのか好意的な意見も見られるようになった。
こちらのコメント欄に登場したDelReyのスタッフの話では今回の企画は出版社側から、マンガを売るために立ち上げたものではなく、マンガというメディアを気に入ったラヴィーン側から持ち込まれたということらしい。
「どんな戦略が使われていても、良いマンガであれば買うし出来が悪ければ買わない。」ファンの意見は当然ながらこの意見に集約されるわけだが、マンガが今のところメディア・ミックスの対象となることが少ないアメリカでは、セレブの名前を前面に出す企画に対して、ファンの反発は強いようだ。
3.日本を含むアジアの読者がメイン・ターゲット。
更にアメリカのファン(それから当ブログ管理人ceena)を驚かせたのが、このオリジナルマンガがアメリカの読者は2次的で、日本を含むアジアのマンガ読者がメインのターゲット、ということである。当初の発表では述べられていなかったが、その後の製作者のインタビューで明らかになった。
ハッキリした証拠があってのものではないが、アメリカのマンガ出版社が日本を含むアジアの読者をメインターゲットとしてオリジナルのマンガを出版すると明言したのは、これが初めてなんじゃないだろうか。
アメリカのハードコアなマンガファンたちは、今でも「日本産以外のマンガは受け入れない」として、アメリカ産マンガを“まがいもの”と呼ぶことも珍しくない。そこまでハードコアなファンではなくても、やはり“マンガは日本産が一番”という考えはアメリカのマンガファンにも根強い。しかしアメリカ産が数多く出版されていくうちに、少しずつ状況は変ってきているのだ。
↓DelReyから出版されるアヴリル・ラヴィーンをスタッフに迎えたオリジナルマンガ『Make 5 Wishes』。
Avril Lavigne's Make 5 Wishes Volume 1 (Avril LaVigne's Make 5 Wishes Graphic Novels)
- 作者: Camilla d'Errico,Joshua Dysart
- 出版社/メーカー: Del Rey
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: ペーパーバック
- クリック: 2回
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サンプルページはこちらで。内容はホラーということだ。
ところで話は変って…
この『Make 5 Wishes』のマンガ家さんは、あの『ナイトメア・アンド・フェアリーテイル』シリーズの新しいマンガ家さんに抜擢された方。『ナイトメア・アンド・フェアリーテイル』はFSCさんのゴシック・キュートな絵もあって、日本語版も人気だと思うけれど、オリジナル版の次回はFSCさんからこのカミラ・デルリコさんにバトンタッチ。
↓FSCさんの『ナイトメア・アンド・フェアリーテイル』日本版。
- 作者: FSc,兼光ダニエル真
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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