『こどものじかん』北米で発売中止になった経緯。

北米版の発売中止が決定した『こどものじかん』を巡って、英語圏のマンガファンの間でも多くの議論がなされていたが、ようやくその騒ぎも収束してきた印象だ。

当ブログでも「私屋カヲル氏の『こどものじかん』、内容に対する非難を受けてアメリカでの発売延期」(5月28日)「『こどものじかん』北米版、発売中止決定」(5月30日)と2回、この件について伝えてきた。

今回は『こどものじかん』を発売する予定だったSeven Seas Entertainment社(SSE)の社長がその中止決定の経緯についての自社サイト掲示板に説明文を掲載(5月30日)したので、その要約を載せたいと思う。

この説明はかなり長く、前半と後半に内容が分かれている。前半は『こどものじかん』発売中止決定までに起こった事を時系列に従って説明。時系列にそった説明の理由はSSE社の社長ディアンジェリス氏によると、「発売延期」から「発売中止決定」までがあまりに短かったため「SSEはちゃんと考えて行動しているのか」という非難を受けたため。

実際「発売延期」発表は少し前に行っていたが、大手ニュースサイトでその発表が取り上げられ多くの人の知るところになったのが発表より5日ほど遅かったので、「発売延期」と「発売中止決定」の間隔が極端に短い印象を持たれてしまった、ということのようだ。

説明文の後半ではいったん延期とした発売を中止した理由について述べているが、その前に「状況をよく理解してもらうために」と、日本のマンガのライセンス取得についても少し説明している。その日本のマンガのライセンス取得の経緯と発売中止の理由の要約は以下の通り。

現在日本のマンガの発売ライセンスの取得はかなり厳しい競争となっている。昔は単行本が出てからでもよかったが現在は他の北米の出版社より先にライセンスを取るためには、単行本が出る前の雑誌連載中に日本の出版社と接触しなければならない。『こどものじかん』のライセンスは、1巻が日本で出たすぐ後に2巻以降のライセンスと合わせて取得した。つまりライセンスを取得した時点で2巻以降はまだ読んでいなかった。

こどものじかん』発売延期発表後から続く議論の中、2巻以降も合わせて詳しく内容を見た結果、アメリカ出版に際して2巻と3巻に問題があることがわかった。(特に3巻129ページから131ページ。)そして以前「アメリカで出版するのに問題はない」とした自分の言葉を撤回すべきだと感じた。この判断の変更の責めは甘んじて受けるつもりである。ライセンス取得に向けて数多くのマンガを精読していく過程で、問題あるシーンを見逃してしまっていたという事実は認めざるを得ない。

こどものじかん』発売中止の最大の理由は、2巻以降に問題のあるシーンを見つけたことにある。ファンの怒りは自分もファンとして理解できるが、アメリカのファンの多くがその問題のシーンを見ればある程度納得してもらえるだろうとも思う。しかし結局この騒ぎの中では出版しても中止しても多くの怒りを招いたことは間違いない。

今回のことが北米のマンガ業界全体に及ぼす影響も考えた。自分はマンガ全体を愛しているし、この仕事も大好きだ。もし『こどものじかん』を発売していたら、マンガに興味の無い人から攻撃されるネタになっていたかもしれない。考えすぎだという人もいるかもしれないが、『こどものじかん』発売延期の発表後、出版メディアからインタビューの申し入れを受けたことを考えると、この後CNNが来るのも時間の問題だったかもしれない。

会社のイメージを考えたことも事実である。マンガのことを知らない北米の人たちの目や北米のマンガファンの目も気になったが、会社のイメージが悪くなることで日本の出版社からライセンスを取得できなくなる事態も避けたかった。

発売延期を発表した後、多くの小売店からオーダーのキャンセルを受けた。小売店側の意見はこれで明白だと思う。

発売中止は「検閲」と同じではないかという意見ももらったが、SSE社では発売する内容を変更するくらいなら出版しないという方針を取っている。これは「検閲」ではなく自発的選択である。

今回の事でSSE社のマンガはもう買わないというファンもいると思う。この作品が北米で出版されるのを心待ちにしていたファンをがっかりさせてしまったことはとても申し訳なく思っている。しかし中止決定理由をきちんと述べたし、これからの自分たちの発売する作品を見てもらえれば考えを変えてもらえるかもしれない。もしそれでも考えを変えてもらえない場合は、SSE社はその判断を尊重したいと思う。

管理人の個人的な印象だが、今回の中止決定は想像していたよりもファンの激しい反発を招かなかった。特にこのSSE社社長による説明文は、多くのマンガファンの間では好感を持って迎えられている。(もちろん怒りを露にしているファンもいるけれど。)

その好感度の理由を掲示板やブログなどを読んでわたしなりにまとめると、

  • その説明から社長が正直に包み隠さず説明している印象を受けること。
  • 説明文を出すタイミングが早く、ファンに「SSE社は何を考えているんだ」というフラストレーションを与えなかったこと。
  • 内容が変更されて出版されるくらいならいっそ出版されないほうが良い、とSSE社のみならずファンの多くが考えていること。(とても悲しいことだが、変更されたものを読むくらいならスキャンレーションを読めばいいとファンが思っているのも事実だろう。)
  • 多くのマンガファンが「出版中止は悲しいが、今のアメリカの状況ではこのマンガを出すのは時期尚早もしくは今後も無理」と考えていて、SSE社の決定を仕方ないことと受け止めていること。

もともとマンガファンだったスタッフによって設立されたSSE社なので、ファン心理を熟知した対応だったと言えるだろう。

こどものじかん 1 (アクションコミックス)

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