『ザ・ヒストリー・オブ・アメリカン・コミックス』:アメリカのコミックスを紹介するDVD。

最近また更新が大変滞っております。スイマセン。

今回は『ザ・ヒストリー・オブ・アメリカン・コミックス』というDVDの紹介です。わたし自身アメリカの“マンガ”事情はちょっと知っていても“コミックス”事情には素人なのでこのDVDを紹介するのは適任ではないですが、色々な国のコミックス+マンガを盛りあげていきたい者として、力不足ですが簡単に内容を紹介したいと思います。

ザ・ヒストリー・オブ・アメリカン・コミックス [DVD]

ザ・ヒストリー・オブ・アメリカン・コミックス [DVD]


1930年代のコミックスの創成期から、80年代の大人気作品『バットマンダークナイト・リターンズ』までを時系列にそって取り上げ、その時代の代表的なコミック・アーティストにインタビューしたものをまとめたものです。インタビューの合間には、その当時の代表的な作品が映し出され、作品によっては作者自身が吹き出しのセリフ読みながら作品全体を紹介したりします。

『ザ・ヒストリー』という日本題名がついているので、取り上げられた個々のコミックスの誕生した状況の詳しい説明を期待すると、それはありません。個々のインタビューでだいたいの状況が把握できるようになっています。日本では先月発売されたばかりですが、製作自体は1989年。最新の情報はなくともアメリカのコミックス界の大御所たちの若き日の姿を見て、おおざっぱな流れを掴むには良いと思います。

わたしは最近50年代、60年代のアメリカのコミックスについて描かれた本を何冊か読み返したところだったので、創成期から60年代までだけはかなり理解して見ることができました。あの色々な意味で悪名高い「青少年非行調査上院小委員会」の公聴会でECコミックスのゲインズが証言する映像も数分収められています。アメリカでコミックスの授業を取った時にこの公聴会の映像を見たことがあったんですが、日本ではなかなか見ることのできない貴重映像かもしれません。あのコミックス糾弾の先方に立ったフレデリック・ワーサム医師の肉声も聞けます。(ちなみにゲインズの証言は一番有名な発言のシーンでないのが残念なところ。)

以下はDVDの各章のタイトルと、その章に登場するコミック・アーティストの面々です。各章のタイトルはDVDに掲載されていたものですが、下のカッコの中の説明はこのブログの管理人の理解で勝手につけたもの。年代毎の区分も、アーティストの名前の後ろに書いたそれぞれの代表作も管理人が勝手につけました。(代表作がたくさんありすぎる方もいるので、本当にこれはただの目安として見てください。)

(1)オープニング・タイトル


30年代から40年代


(2)創成期
(30年代のコミックスの創成期、スーパーヒーローの誕生、スタジオと呼ばれるコミックスの下請けの隆盛)
ウィリアム・M・ゲインズ(ホラー、クライムコミックスで50年代一時代を築く)
ウィル・アイズナーザ・スピリット
ジャック・カービーキャプテン・アメリカ


(3)アートとしてのコミック
(画一的になりがちだったコミックスに独自の世界を持ち込んだアイズナー)
ウィル・アイズナーザ・スピリット


50年代


(4)ホラーコミック
(ECコミックスに代表されるホラー、クライムコミックスの隆盛)
ウィリアム・M・ゲインズ
アル・フェルドスタイン(ECコミックスの人気レーベル”ニュートレンド”ラインをゲインズと共に確立)


(5)犯罪と検閲
(クライムコミックスに対する世間のバッシングとコミックスコードの導入)
ウィリアム・M・ゲインズ


(6)MAD誌 
(コミックスコード導入後に、コミックス出版を止めたECコミックスから出版された雑誌「MAD」。風刺を売り物とした。)
ハーヴィー・カーツマン(MADで風刺コミックスを担当)
ウィリアム・M・ゲインズ


60年代


(7)帰ってきたスーパーヒーロー
(一時期その人気を落としていたスーパーヒーローが、時代に合った形で登場し再び人気を博するようになる。コミックスの“シルバー・エイジ”と呼ばれる時代。)
スタン・リー「スパイダー・マン」


(8)アンダーグランドの時代
(ヒッピーやドラッグ文化と結びついたアンダーグランドコミックスの登場)
ロバート・クラム「フリッツ・ザ・キャッツ」
ビクター・モスコソ「ザップ・コミックス」


(9)言論の自由
(政治状況に異を唱えたり、権威をパロディ化するコミックスの登場)
スペイン・ロドリゲス「トラッシュマン」
ギルバート・シェルトン「ファビュラス・ファーリー・フリーク・ブラザーズ」
ダン・オニール「エア・パイレーツ」(ミッキー・マウスのパロディでディズニーに訴訟を起こされる)


(10)女性アーティストとコミック
(メインストリームではほとんど見られない女性アーティストの登場)
シャリー・フレニケン「トロッツ・アンド・ボニー」


70年代


(11)ジッピーの存在
(大人気風刺コミックス「ジッピー・ザ・ピンヘッド」)
ビル・グリフィス「ジッピー・ザ・ピンヘッド」


(12)コミックと現実の世界
(個人的なことや日常を描くオルタナティブ・コミックス市場の台頭)
ハービー・ピーカーアメリカン・スプレンダー
ハイミー・フェルナンデス「ラブ・アンド・ロケッツ」


(13)特別な日
オルタナティブ・コミックス作家として最も成功した作家の一人であるリンダ・バリーの作品「ミス・マルフェット」の「特別な日」)
リンダ・バリー「ガールズ・アンド・ボーイズ」


80年代


(14)RAW誌
(当時のオルタナティブ・コミックスのムーブメントを代表する雑誌「RAW」)
アート・スピーゲルマン「マウス」
チャールズ・バーンズ「ビッグ・ベビー」


(15)プロパガンダ
(政治的なプロパガンダと作品を批判された作家、スー・コー)
スー・コー「エックス」


(16)スーパーヒーローの減少
(「バットマン」シリーズを再定義したと言われる、80年代を代表する作品「ダークナイト・リターンズ」)
フランク・ミラーバットマンダークナイト・リターンズ」



(17)永遠の芸術

(コミックスは芸術か?)
ウィル・アイズナー

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