『スラムダンク』いよいよ北米でリリース…?以前に北米で出版された“幻の”『スラムダンク』と新版『スラムダンク』の北米での可能性。


Varietyを元にするYahooの記事「「スラムダンク」、アメリカで発売!NBA選手もキャンペーンで推薦」(↓下に一部抜粋)を読むとちょっと誤解を生みそうなので、いちおう書いておこうと思う。

日本での発行部数が1億冊以上を誇る井上雄彦のバスケットボール漫画「スラムダンク」が、いよいよ北米でリリースされることになった。9月2日の一般発売を前に、24日から27日まで開催されるコミコン(Comic-Con International)で出版元のVIZメディアが、NBA選手のグレッグ・オデン(ポートランド・トレイルブレイザーズ)やロサンゼルス・レイカーズの名物チアリーダー“レイカー・ガールズ”を迎えて、お披露目キャンペーンを行う。

上の記事を読むと井上雄彦先生の『スラムダンク』は今回始めて北米で発売される印象を与えるかもしれないが、実は既に北米で出版されている。2003年に単行本としても発売されているし、アメリカで初とも言われた週刊少年マンガ雑誌にも2002年から連載されていた。

残念ながら当時は人気が出ず、単行本も最後まで出なかった上に、そのマンガ雑誌も2年弱で廃刊となった。そのため今回の記事では黒歴史として葬りさられたのかもしれない。つまり上記のYahoo記事は本当は「『スラムダンク』がいよいよ北米で(再)リリース」を扱った記事なのだ。

今回北米で『スラムダンク』を出版するのはアメリカのマンガ市場*1でナンバー1のシェアを誇るVIZ Media。

VIZ Mediaは現地時間24日から開催される世界最大のコミックスのイベント・通称「サンディエゴ・コミコン」*2において、NBAの選手を呼んで大掛かりなイベントを行う。このイベントの派手さを見ても、VIZがこの作品を「以前は売れなかったが、時期を見て相応の宣伝をすれば売れる作品」と考えて、その可能性に期待していることがうかがえる。 (→下に続きます。)

↓VIZ Media英語版『SLAM DUNK』。

Slam Dunk, Vol. 1

Slam Dunk, Vol. 1

もちろん、VIZの『スラムダンク』キャンペーンの規模には変容する「サンディエゴ・コミコン」も理由に挙げられるかもしれない。“コミックスのイベント”とは言え、『スパイダーマン』『Xメン』などの映画の成功も後押しとなってイベントのハリウッド化・メジャー化が進み、今では大物監督、ハリウッドスターが参加することも珍しくないからだ。

とは言え、日本そして東南アジアでの成功を考えると、VIZの『スラムダンク』に寄せる期待は大きいと思う。


ちなみに“幻”となってしまった(?)かつての『スラムダンク』は、「アメリカで最初の週刊マンガ誌」として2002年8月に創刊された『Raijin Comis』に連載されていた。同年11月に「2003年1月号」を創刊号として発売を開始した米版『SHONEN JUMP』(月刊)とほぼ同時期の創刊である。出版元はGatsoon Entertainment。その親会社コアミックスを創設したのは、最高部数を記録した当時『少年ジャンプ』の編集長を努めていた堀江信彦氏。

面白いものは国が違っても面白いはず、と『スラムダンク』『花の慶ニ』『シティーハンター』などを擁した週刊マンガ雑誌『Raijin Comics』で北米に進出。“週刊マンガ誌”どころか“マンガ雑誌”という概念もなかった当時の北米では苦戦し、残念ながら2年弱で廃刊となった(2004年6月廃刊)。

ちなみに創刊7年目を迎えるVIZ Media出版の月刊『SHONEN JUMP』は現在も堅調な売上を示している。それでは『SHONEN JUMP』と『Raijin Comics』の違いはどこにあったのか?

例えば『SHONEN JUMP』が2002年に創刊と言ってもそれを出版するVIZの母体は80年代からアメリカでマンガを出版してきたことで市場に対する理解が深かった、他には『SHONEN JUMP』は大手ケーブルテレビ「カトゥーン・ネットワーク」と緊密に連携してアニメ作品の関連商品としてのマンガ雑誌の認知に成功した、などなど『SHONEN JUMP』成功の理由は挙げようとすると色々挙げられる気がするのだが、それはキリが無いのでまた別の機会に。(→下に続きます。)

↓Gatsoon Entertainmentによる英語版『SLAM DUNK』。

Slam Dunk

Slam Dunk

現在までのところ北米で発売された井上雄彦先生の作品には、今月15日に発売が開始された『リアル』と『バカボンド』がある。最近発売されたばかりの『リアル』はともかく『バカボンド』単行本の北米での売上は実はあまりよくはない。ただしあちらのマンガライター、マンガ業界関係者、マンガ家の間での井上雄彦先生の評価はかなり高く、『バカボンド』も賞賛を浴びている。(→下に続きます。)

↓英語版『リアル』

Real, Vol. 1

Real, Vol. 1

↓英語版『バカボンド
Vagabond, Vol. 1 (2nd Edition)

Vagabond, Vol. 1 (2nd Edition)

スポーツが盛んな国とは言え、アメリカではかつて「スポーツマンガは受けない」と言われていた時期が長かった。(当ブログの記事「米PublishersWeekly記事「アメリカで日本のスポーツマンガは人気が出るか」参照。)

しかし今回の『スラムダンク』イベントはNBAスターの後押しもあってメディアの注目は集まるだろう。「スポーツマンガは受けない」*3というジンクスを破ってとうとう井上先生の作品が北米で正当な評価を受ける時が来たか?


ここで一井上ファンとして、先日の『井上雄彦 最後のマンガ展』を北米でも開催することを切に希望する。アレをやればメジャーな新聞の芸術欄で『バカボンド』が取り上げられて、一般の認知度が高まること、間違いなし!死生観は哲学的だし!僧侶は出てくるし!サムライだし!

VIZ Mediaさん、どうでしょう?

*1:ここで言う“マンガ市場”とは日本産マンガの市場という意味。

*2:「サンディエゴ・コミコン」の正式名称は「Comic-Con International San Diego」。

*3:『アイシールド21』の売上については正直良くわからないが、売上上位に来ていないという印象だ。