アメリカ個人書店のマンガ販売戦略。

PublishersWeekly"Powell's City of Manga"(12月6日)より。少し前の記事の前だが、面白いので要約。

アメリカでの有名大手書店やコミックス専門店のマンガ販売の記事は度々このブログでも取り上げているが、今回の記事はアメリカの中規模個人書店でのマンガ販売のお話。立ち読み防止のためにビニ本にするなど、日本の本屋さんと同じような販売戦略が行われている。

マンガがBordersやBarnes&Nobleなどの大手書店で売れているのはよく知られていることだが、個人書店は今までこのカテゴリーに対して積極的ではなかった。オレゴンポートランドにある独立系書店でありネット販売も行っている「パウエルズ・シティ・オブ・ブックス」もそんな書店のひとつだ。

販売部長を務めるゲリー・ドナヒューによると、マンガの売上は過去数年間で加速度的に増加した。それは主に「右から左へ」読む形式に変更されたことと、アメリカ社会におけるアニメの知名度が上がったことが原因らしい。「パウエルズ」の各店舗の売り場と在庫を合わせると現在グラフィック・ノベルは1000冊以上あるが、その600冊をマンガが占める。残りの260冊はマンガではないグラフィック・ノベルで、99冊がスーパーヒーローもの。つまりマンガは「パウエルズ」のグラフィック・ノベル売上の60%に達しているのだ。

これらの数字は、マンガ販売が売上増大の好機であることを表しているのと同時に、実はいかに販売促進が困難かをも表している。ほとんどのマンガはシリーズものとして発売され、人気ある作品なると20巻を超えることも珍しくない。高橋留美子の古典『らんま1/2』は現在32巻まで発売中だ。このままでは書店が抱えるマンガの在庫はどんどん増え続けるだろう。

しかし良い点は明らかだ。いったん消費者が一つのシリーズを気に入れば、ほぼ自動的に次々と買い続けてくれる。新刊はだいたい2ヶ月おきに発売されるので、書店はシリーズのファンから一定の売上を見込むことができる。消費者にとっても1冊につきおよそ10ドルという価格は、趣味としても手ごろだろう。しかも親も認める趣味だ。(増え続けるマンガファンに応えて、「パウエルズ」では店のキッズ・コーナーにグラフィック・ノベル・セクションを設け、『ドラゴンボール』や『ワンピース』などの子供向けマンガを置いている。)

ただ昔ながらの本屋にとって問題なのは売り場面積である。過去18ヶ月「パウエルズ」は成長し続けるグラフィック・ノベルをどのように分類し、どのように売り場に置くかについて悩み続けてきた。以前マンガは『カルヴィン&ホッブス』『スーパーマン』コレクションやロバート・クラムと共に「ユーモア」のコーナーに並んでいた。しかし今マンガはSF、ホラー、ミステリーなどのように独立した売り場を持っている。

このようなカテゴリーの見直しは読者層という点からは納得のいくもののようだ。ドナヒューによると、マンガと他のグラフィック・ノベルの読者は重ならない。しかしこの見直しは販売的な見地にもよっている。「7インチの高さのマンガと10インチのスーパーヒーローもののコレクションを並べておくと、棚のスペースを最大限に活用することができない。この2つのジャンルを別々に置けば、マンガのシリーズの一部を棚に出し残りを仕舞い込むということをせずに、全部を棚に並べることができる」

しかし「パウエルズ」では売り場以外の問題にも対処しなければならなかった。マンガは早く読める上に読み捨てという場合が多いので、消費者は店内で読み終えてしまうこともある。そこで「パウエルズ」では立ち読みを防ぐため全てのマンガにビニールをかけた。だがそれによって本を傷めるのを防ぐことはできたものの、読者がどのような作品なのかを知る手がかりを得られなくなってしまった。

しかし数年前Vizの販売担当者が“もしビニールをかけるのを止めてくれたら、熱心すぎる読者のおかげで傷んでしまったVizのマンガをいくらでも新品と交換する”と「パウエルズ」に約束した。そして驚くべきことにビニールをかけるのを止めると売上は劇的に増大したのだ。Vizとのこの約束はすでに無効になっているが、「パウエルズ」は結局全てのマンガを立ち読み可能な状態にしている。「立ち読みできることによって生じた利益はダメージにより失った本の分を十分カバーしている」とドナヒューは言う。

新品と中古の本を同時に並べて販売するという「パウエルズ」の戦略も売上増加に貢献しているが、出版社はこの戦略をあまり歓迎していないようだ。しかしそうであっても、中古本販売がマンガへの興味をさらに駆り立て、マンガ出版全体の利益になるという可能性は出版社もしぶしぶ認めているところ。

ドナヒューは言う。「中古本があることで消費者が新しいシリーズを試すことにより積極的になれるだけでなく、既にマンガの大ファンになった消費者が自分のマンガを売るために「パウエルズ」に戻ってきて、その売ったお金で更に多くのマンガを買っているのだ」

本文に出てくるVizの約束にはビックリした。日本でこういう事ってあるのだろうか?