本の専門誌PublishersWeeklyによる「2006年度北米で発売されたベスト10マンガ」。

本の専門誌PublishersWeekly「2006年度ベスト10マンガ」の発表があった。記事内には特に明記されていないが、これは2006年の売上トップ10ではなく、同紙でマンガコーナーを担当するカイ-ミン・チャ氏による「2006年に北米で発売されたマンガの中のベストマンガのトップ10」ということのようだ。

英語圏のプロ・アマを含めたマンガ批評家や出版社のブログ界隈では、このベスト10に賛否両論が渦巻いている(←最近こういうこと何度も書いてる気が。でもまぁ事実だから仕方ないか。)でもベスト10というのはそう言うもの。どの人が選んだベスト10でも、自分のベスト10と一致したり、全員の賛同は得られるなんて事はない。「自分と意見が違っても、ベスト10を見て新しいマンガに出会うってのはいいよね」というコラムニストブリジッドさんに賛成して、ベスト10という年末年始の風物詩を楽しもう。

それではPublishersWeekly紙の今年のベストマンガとその解説の要約をどうぞ。

10位『Blood Alone』(高野真之

この吸血鬼少女とその保護者の青年の物語で、新興出版社であるInfinity Studioesは金脈を掘り当てた。レイアウトや絵へのこの作者の独創的な取り組みは、多くの読者にとって新鮮。

Blood Alone 1

Blood Alone 1

9位『Boys of Summer』(チャック・オースティン原作・大塚弘樹画)

アメリカ的な良さを持ったマンガ。大学生のバド・ウォーターストンは女の子好きの野球好き。原作のオースティンは、お色気あり感動ありの脚本でマウンドに上がり(←訳者註:この作品は野球マンガです)、絵を担当する大塚はパンティショットを出し惜しみすることなく、ちょっと刺激的でオシャレなマンガに仕上げている。

Boys of Summer Volume 1

Boys of Summer Volume 1

8位『裁かれし者』(本間アキラ)

BLはきれいごとを描くマンガばかりではない。『裁かれし者』は新人刑事と汚職政治家の、とりつかれたかのような強い愛の物語。凶暴ではないが、暗い愛の物語が発売されたことで、成人向けBLマンガのストーリーの可能性が更に開かれた。

The Judged

The Judged

7位『デスノート』(大場つぐみ原作・小畑健画)

1巻が発売されたのは2005年だが、それ以来『デスノート』は北米でもファンを増やし続けており、2巻と3巻は増刷になった。実写映画が日本で公開、香港の映画祭でも上映されている。現在では、イタリア、ドイツ、フランスなどヨーロッパの国々が映画獲得に動いている。

Death Note, Vol. 1

Death Note, Vol. 1

6位『プロジェクトX:日清カップヌードル編』(生田正脚本・木村直巳画)

プロジェクトX』シリーズは日本でのビジネスの様子を描いたビジネスマンガだ。ビジネスマンガと言っても、普通のマンガと同様の情熱で描かれている。『カップヌードル編』は、まさにカップヌードルのように手で持てるマンガというメディアで、歴史とビジネスについて読者に教えてくれる。

Project X - Nissin Cup Noodle

Project X - Nissin Cup Noodle

5位『エアギア』(大暮維人

大暮維人のようにアクションは描くことは他の誰にもできない。身体的エネルギーと流れるような肉体の動きが迫ってくるようなその描写力。読者に東京の郊外の町で飛びまわっている感覚を味あわせてくれる。

Air Gear 2

Air Gear 2

4位『EDEN』(遠藤浩輝

重いストーリーと、軽い専門用語。世紀末後を描いたマンガ『EDEN』はわたしたちの中にあるギーク的なものに訴える。遠藤は小池一夫の教えを忘れずにいるという。それは「キャラクター、キャラクター、キャラクター」だ。その結果『EDEN』は重層的な物語と複雑なキャラクターを持つ、深く味わいのあるマンガとなった。

Eden: It's an Endless World! Volume 1

Eden: It's an Endless World! Volume 1

3位『Punch!』(高田りえ

少女マンガを読む楽しみを味あわせてくれる作品。親の決めた婚約者から逃れるために偽装の彼氏を連れてくる主人公。でも3人の関係は主人公の思惑通りにいかず、男2人のライバル心はどんどん増していく。

Punch!, Vol. 1

Punch!, Vol. 1

2位『バジリスク甲賀忍法帖〜』(山田風太郎原作・せがわまさき画)

シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を日本の封建時代に設定し、『Xメン』のミュータントのような力を持った忍者の家どうしの物語にしたら、『バジリスク』になったと思わせるような作品。原作本(Del Rey社から発売)とアニメも2006年のヒット作となった。

Basilisk 1: The Kouga Ninja Scrolls

Basilisk 1: The Kouga Ninja Scrolls

1位『The Building Opposite』(ヴァニダ)

2006年に発売された典型的な“ヌーベルマンガ”。若いカップル、年老いたカップル、シングル・マザーとその子供など、1つのアパートに住む住人たちを並行して描いた作品。日常の一こまを切り取ったタイプというよりも、感情を抑制したストーリー重視の物語だ。ユーモア、語られることのない悲劇、純真さを抱える日常を美しく描いている。

The Building Opposite

The Building Opposite

英語圏のマンガブログ界隈でのこのリストへの議論の中心は、1位の『The Building Opposite』。実はこの作品、まだ北米では発売されておらず、フランスでのみ発売された本だという*1アメリカで発売されていないマンガが「北米で発売されたベストマンガのリスト」に入っていることに対する不満は表明されているものの、このマンガに対して英語圏のマンガブロガーたちは興味しんしん。発売するなら今?

他にも、ここ1ヶ月半ほど評論家に絶賛されている手塚治虫きりひと讃歌』が入っていないとか、ベスト10なのに比較的話題に上ることが少なかった作品が多く入っている、などの点が指摘されているが、色々なジャンルのマンガが万遍なく入っているという点では行き届いたリストだと評価する声もある。

とりあえずわたしは、リスト上の非日本産マンガ2作品のうち『Boys of Summer』はもう持っているので、『The Building Opposite』が英語で発売されたら買ってみることにしよう。

*1:『The Building Opposite』北米未発売:1年ぐらい前から発売予定のカタログには載っていたということだ。しかし実際には発売されていないらしい。