ヨーロッパでのアジア系マンガの影響力。


「アジアン・タイムス(Asian Times)」の3月8日の記事「ヨーロッパを不安にさせるアジアのコミックス(Asian comics make Europe anxious)」から要約。

ここは主に北米からの記事を取り上げるブログだけれど、今回はヨーロッパについての記事。ヨーロッパのマンガ事情はよく知らないので、この記事にはちょっと驚いたところも。あのベルルスコーニ氏が…

500平方メートルほどの広さの展示の周りにはたくさんの人が群れなして押し寄せていた。展示されているものは中国と日本のマンガ。

フランスのアングレームで開かれたヨーロッパ最大のコミックスのイベント「第33回インターナショナル・コミックス・フェスティバル」では、間違いなくある事実が明らかになっていた。本イベントが始まって以来初めて、日本人のマンガ家水木しげる氏の『のんのんばあとオレ』がベストコミック賞を受賞したのだ。多くの場合受賞者は様々な国から選ばれるが、日本人マンガ家に対するこの評価はフランス・ベルギーを中心とするヨーロッパのコミックス界に起こる大きな変革を象徴していた。

ヨーロッパにおける文化的状況は、日本のマンガに牽引されたアジアのコミックスの影響力が増すとともに、過去10年急激に変化してきている。これはフランスにおいて特に顕著だ。フランスは現在本国日本に次いで第2の日本のマンガ消費国である。(第3位はアメリカ。)

この事実が示すのはヨーロッパ人のメンタリティーの何かが変化してきた、ということだろう。この変化を心配しながら見つめてきたヨーロッパの出版界と批評家とって、アジアからのマンガは恐るべき競争相手だ。しかしこのアジア文化に対する愛情はどこから来たのだろうか?

それはイタリアから始まった。前首相でメディア王でもあるベルルスコーニ氏がイタリアへの日本マンガの輸入を始めたのである。イタリアで最初にして最大のヒット作『UFOロボ グレンダイザー』(英語名:『Goldrak』)は日本で1975年にアニメ放送が始まったが、フランスでは1978年に、そしてイタリアではその数ヶ月前にテレビで見ることができた。『グレンダイザー』はすぐに大人気アニメとなり、その後80年代入ると『AKIRA』、そして1984年には超ヒット作『ドラゴンボール』が続いた。

「現在まで続くこの現象は子供向けアニメがフランスで80年代に放送された頃に、その原作マンガから始まったのです」こう語るのはエマニュエル・ぺティーニ氏。日本の妖怪について論文を書いたこともある、日本マンガのフランス人スペシャリストだ。「その時期にマンガと共に育っていく第一世代が誕生しました。この頃10代だった若者達が後にヨーロッパのコミックスではなく日本のマンガを読む新世代となったのです」マンガへの興味をもたらしたのはアニメ、というわけだ。

90年代に入るとマンガの売上部数は急激に伸び、2003年から2005年の間にピークを迎えた。この突然の人気の高まりについて専門家はいくつかの理由をあげる。

まずヨーロッパ人はものを所有する喜びを大切にするので、美しいカラーの48ページのコミックスに惹かれるが、インターネット世代の若者はその美しい本を1冊出すのにヨーロッパ人の作家が2年かけるのを待ってはいられない。スピードに慣れすぎているのだ。

アジアにおいてはこの点かなり事情が違う。特に日本ではマンガ家はたった1月にこの半分のページを描きあげる。「マンガファンは続きを読むのに2年も待つ必要がないんです。これもヨーロッパのコミックスより日本のマンガが好まれる大きな理由だと思います」加えて若者は例えば『ドラゴンボール』のように何年も続く物語を好む傾向がある。しかもヨーロッパと違い、アジアでは毎月新しい単行本が出るのは普通のことだ。

アジア系マンガに詳しいフランス人、ザビア・ギルバート氏は日本のマンガ人気の理由についてこう語る。「ティーンエイジャーはアイデンティティを模索しています。親に反抗し、日本の特殊な考え方や、読み方・フォーマットにおいて今までのコミックスとの“違い”求めるのです」

今日、ヨーロッパにおけるアジアのコミックスの影響力は絶大だ。中国、韓国のコミックスもヨーロッパ大陸に押し寄せてきた。ある資料によると2006年、ヨーロッパのコミックス市場は5億百万ドルの売上をあげ、1年で4千万冊売ったということだ。そしてその3分の1がアジアのコミックスであり、アジアのコミックスを扱う新レーベルも続々誕生した。

「コミックス批評家・ジャーナリスト協会」の理事であるギルズ・ラティエ氏によると、ここ数年のヨーロッパのコミックス市場はとても繁栄していたと言える。特に2006年はフランス語圏のコミックスにとって良い年だった。ラティエ氏の分析によると、2005年には2701点だったコミックスの出版が2006年には14.7%増の4130になった。

同協会の調査ではそのうち1799が海外からのコミックスで、アメリカから239、アジアから1418ということだ。以前から見られていた出版点数の増加、多様化、そして“マンガリゼーション”の傾向は加速している、ラティエ氏はそう指摘する。

これらの数字の増大はだいたいにおいて歓迎されているものの、アジアのコミックスがフランスを中心とするヨーロッパのコミックスの死をもたらすのではと心配する声もあがっている。ヨーロッパの出版業界はこのアジアからの“脅威”に怯える必要はあるのか?

前出のギルバート氏は「そんな必要はない」と語り、アジア産コミックスのヨーロッパへの影響力維持は良いことであり、これを良い機会と見るべきだという。「マンガの到来は編集の現場を確かに変えました。それがここ数年のコミックスの成長につながったのです」

「更に良いのは、マンガが若い読者と女性の読者を魅了したことです。言うまでもないことですが、この読者層の広がりが将来特に意味を持ってくるでしょう。ここにチャンスがあるのです。ここでアジアのみならずヨーロッパのコミックスに興味を持ってもらえるように、つながりを作っていく必要があります」

ヨーロッパの出版社にとって「戦い」に替わる別の道があるようで、最近では「同盟」へと進むところもでてきた。アジアの作家たちと協力するようになってきたのである。文化と才能が融合した、言わば“ヨーロッパ−アジア産マンガ”というハイブリッドの誕生である。コミックスの世界で次に注目を集めるのはこの種のコミックスになるのかもしれない。

上で「ヨーロッパ人のメンタリティーの何かが変化してきた」ことが、マンガを受け入れるヨーロッパの状況の一因として挙がっているが、わたしが少し前に読んだ本ではアメリカでのアニメなどの日本文化人気について、「日本のポップカルチャーが変化したのではなく、変化したのはアメリカ」という趣旨のことが書いてあった。面白いなぁ。

↓これがその本。『ジャパナメリカ:日本のポップカルチャーは如何にしてアメリカに侵入してきたか』。時間があったら内容をまとめたものをアップしたいと思ってたけど無理みたいです。堅い論文ではなく、ジャーナリスティックな本なのでそんなに読むのは大変ではないかもしれません。字もデカイし。

Japanamerica: How Japanese Pop Culture Has Invaded the U.S.

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当ブログ関連エントリー「フランス最大のコミックス賞で水木しげる氏の作品が選出」