「ナルト・ネーション」:アメリカで『ナルト』単行本12冊+他関連本3冊を4ヶ月で発売する大キャンペーン敢行。

アメリカで現在絶大な人気を誇る『ナルト』。マンガ以外の一般書籍を含む本のベストセラーリストの常連であり、現在アメリカでのマンガ人口拡大に大きく貢献しているとも言われている作品だ。

そんな『ナルト』をアメリカで出版するVIZが先月末にある発表を行った。それは「ナルト・ネーション」と銘打たれた『ナルト』マンガの販売キャンペーンの発表で、現在まで隔月刊だった『ナルト』単行本を2007年の9月から12月の4ヶ月で12冊出版するというものである。

VIZは『るろうに剣心』が大人気だった当時、毎月単行本を発行していたことがあったが、今回ほどの短期大量出版は初めて。オリジナルを出版する本国より出版が遅れる翻訳版を読むことに慣れていた北米のマンガファンたちはこの決定にびっくりだ。ファンの間ではVIZの戦略に対して賛否両論、更にはこの戦略決定を促した背景に関して憶測がうずまいている。

Comic World Newsのデヴィッド・ウェルシュ氏によるVIZのバイス・プレジデントのゴンザロ・フェレイラ氏へのインタビューによると、

  • 次がすぐに読みたいというファンの強い要望に応えたい。
  • 現在の単行本刊行ペースでは他のメディアからのネタバレを避けることができない。

というのが、今回の戦略を決めた理由だということだ。加えてこれを後押ししたのが『ナルト』マンガの販売部数とどんどん増えるファンの数である。昔発売された巻が今でも部数を伸ばしていることで、VIZのフェレイラ氏は新旧のファンが自分のペースで『ナルト』を買って欲しい、と語っている。

上でそのフェレイラ氏が“他のメディア”と言っているのは明らかにスキャンレーション(ファンが勝手にマンガがスキャンし、翻訳を付けてネットにアップしているもの)のことであり、オフィシャル版マンガとスキャンレーションとの時間差を埋めるのもVIZの狙いのようだ。(ただし今回のキャンペーンでも、完全には日本の刊行ペースには追いつかない。)

Comics Journalの前エディターであるダーク・デピィー氏はJournalistaで、今回の刊行ペースでスキャンレーションに惹かれるファンの数が減るのでは、とVIZ同様スキャンレーションに対する効果に関しては肯定的だ。

ただしこのキャンペーンには懐疑的な見解も多い。デビッド・ウェルシュ氏自身のブログのコメント欄でも議論されているが、実際『ナルト』ファンの年齢層を考えると、彼らがこの刊行ペースに金銭的に追いついていけるとは思えない。

Anime on DVDサイトの掲示板ではVIZのライバル会社Tokyopopのエディターによって「ただでさえ本屋のスペースをめぐって激烈な戦いが繰り広げられているのに、『ナルト』がこんなペースで出ると他のマンガに影響し、業界全体のためにならない」という趣旨のコメントが出ている。

とは言え、Icarus Publishingのサイモン・ジョーンズ氏の言うように「“我が家のナルト”のおねだりに負けて、お母さんたちが買ってあげちゃうんじゃないのー?」という見方もある。

これからの北米のマンガ業界のことを考えると、やはり『ナルト』には頑張ってもらってマンガファン人口を増やし、マンガへの一般の理解をますます深めていってもらいたいところ。

来年の1月からはまた隔月刊に戻る英語版『ナルト』。隔月刊に戻る最初の1巻目は28巻になる予定。

NARUTO -ナルト- 28 (ジャンプコミックス)

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