日本のエロマンガを専門に出版するアメリカの出版社Icarus Publishing社長インタビュー。

現在北米で日本のエロマンガを専門とする唯一の出版社Icarus Publihsing。社長さんのサイモン・ジョーンズ氏はエロマンガのみならず日本のマンガ全体の知識も豊富で、北米のマンガブログ界では名前を知られたお方でもある。このブログでも何回か発言を引用させていただいた。

Comic World Newsに掲載されたインタビューでそのジョーンズ氏が「北米でエロマンガを売る仕事」について語った。つっこんだ詳しい話はないものの、普段あまり語られることの多くない北米での日本のエロマンガについて知ることができる貴重なインタビューだ。

Icarus Publishingは現在だいたい月刊のペースで『Comics AG』という日本のエロマンガの雑誌を出版し、その他に単行本も出版している。

上でも述べたように、現在日本のエロマンガを専門に発売する出版社はジョーンズ氏のIcarus Publishingだけだが、この他にFantagraphics社はその「Comics Erotica」のラインで日本のエロマンガを扱っている。たぶん現在のところ公式に北米で発売されている日本のエロマンガはこの2社を通してのものだけだろうと思う。

ちょっと長めのインタビューなので、要点だけ以下にまとめてみることにした。

  • Icarus Publishingは2002年設立。設立を決めた特別な動機はないが、VIZが『ジャンプ』をアメリカで発売するずっと前から、雑誌で成人向けマンガを出版することは考えていた。個人的に日本のマンガ家さんを何人か知っていたので、そのマンガ家さんを通じて日本の出版社と連絡をとった。
  • 現在『Comics AG』は80ページほどのページ数で価格は5ドル(600円弱)。日本のマンガ雑誌の場合と同様、この雑誌で多くの利益を得ているわけではない。特に初期は利益が出ずに苦しんだが、最近は次の本を出すには困らない程度には上手くいっている。そして単行本を売るための宣伝という当初の目的も果たしてくれるようになった。
  • 自分たちの本の多くがコミックス専門店で売れている。しかし現在3500以上あると言われているコミックス専門店のほとんどはエロマンガを扱いたがらない。ただ自分たちの経営が比較的健全に行われていることを考えると、扱ってくれる少数の店では問題なく売れているということだろう。いくつかのネットショップや自社HPのショップでも少数だが売れている。
  • 販売経路の確保はいつも悩みの種だし、これからもそうだろう。大手書店はもちろんエロマンガは扱わないし、普通のポルノショップでも同じだ。普通のポルノショップではDVDや写真集は売っても、マンガやグラフィックノベルを売るのに慣れていない。つまり自分たちの本はかなり多くの店にとって扱いにくい、ニッチ市場向けの商品なのだ。
  • ニッチ市場向け商品なので、メインストリームのマンガのようにライセンス獲得をめぐる激しい戦いはないが、その代わり別の問題がある。アメリカでは市場規模が小さいため、日本の出版社やマンガ家に払うライセンス料の金額も小さくなってしまうことだ。そのせいで出版したい作品のライセンス取得に苦労している。
  • 発売するタイトルで言うと、日本の魅力的なエロマンガの多くがアメリカ市場向きではないという問題もある。商業的に売るには内容が過激すぎたりするためだ。出版する作品には、自分の趣味が反映されているわけではなく、金銭的問題以外に会社としてある基準を設けて選んでいる。そのため作品が偏っているという批判を持つ人もいるようだ。しかし自分たちには小売店、出版社、マンガ家に対して責任があるので、その人たちが訴えられるような事態は避けなければならない。
  • 商業的にもっと成功すれば、もっと多様なエロマンガを出版できるようになるかもしれない。例えばやおいマンガの人気は少女マンガ人気の上昇なくしてありえなかったと思う。自分たちの出版するようなエロマンガがもっと人気になれば、将来は日本からゲイ向けのエロマンガが輸入される日もくるかもしれない。現在エロマンガを扱う店が少ないのは訴訟を恐れてのことだが、将来社会的に容認されるものが変わる可能性もある。しかし日本のように多様なエロマンガが出版されることはこれからもないと思う。
  • (最近アメリカの大手印刷会社が、ポルノ的表現のあるコミックスを発売する出版社との取引をやめるポルノ的表現の印刷物を扱うのをやめると発表したことを受けて)自分たちは印刷はカナダで行い、製本も海外で済ませている。そのため幸運にも印刷会社と問題が起きたことはない。
  • 自分たちの本を扱う専門店と良好な関係を保ちたいと考えているが、取次のダイアモンド社はどの店に自分たちの本が卸されているのかを知らせてくれない。無料のサンプル本を作ったので興味を持った小売店は是非自分たちに直接連絡を取って欲しい。
  • 最近日本で出版されたばかりの作品のライセンスを取得できたが、それは『ナルト』のキャンペーン(訳者註:日本の出版との時間差をなくすために、アメリカで『ナルト』単行本を4ヶ月で12冊発売する試み)のようなつもりではなかった。新しい作品を出版できるのは嬉しいが、今回は偶然そうなっただけ。出版時期には日本の出版社やマンガ家さんの考えもあるので、自分たちにはどうしようもない部分も大きい。
  • エロマンガスキャンレーション(訳者註:ファンが勝手にマンガをスキャンして翻訳を付けてネットにアップしたもの)は人気だが、自分たち自身もネット上でダウンロード販売することに魅力を感じている。しかしもし本当にそれが可能になった場合、日本の出版社は北米でマンガを出版するのに自分たちのような会社を必要としなくなってしまうのではないかという恐れもある。
  • 最後に個人的な話として、自分は台湾で生まれたので『ドラえもん』が始めて読んだマンガ。小さい頃は『マジンガーZ』や『筋肉マン』アニメが好きだった。その後は『北斗の拳』『聖矢』や悟空が子供の頃の『ドラゴンボール』にもはまった。

わたしは『Comic AG』を読んだことがないので、今度是非買ってみたいです。