『ネギま!』『ツバサ』をアメリカで出版するDel Reyマンガ部門ディレクターのインタビュー(1)。


アメリカのコミックス評論誌Comics Journalに掲載された、Del Rey社マンガ部門・ディレクターであるダラス・ミダウ氏のインタビューの要約を掲載。

このインタビューは大ざっぱに分けると以下の3つのパートから成るロング・インタビュー。

  • Del Reyの戦略と北米マンガ市場の現在。
  • ダイレクト・マーケット(コミックス専門店への流通)の問題点。
  • ファンサブに対するミダウ氏の見解。

どのパートも面白いけれど、とっても長いので今回は最初の部分「Del Reyの戦略と北米マンガ市場の現在」だけ2回に分けて要約。

インタビューに先立って書かれた簡単なミダウ氏のプロフィールとDel Reyの現状は以下の通り。

コミックスの長年のファンだったミダウ氏はゲーム会社でそのキャリアをスタートさせ、2000年にアメリカ版『ジャンプ』を発売する現Viz Media社に入社。2年半後には「OELマンガ」(非日本産マンガ)を発売するSeven Seas Entertainment社を立ち上げると共に、コンサルタントとして大手出版社ランダム・ハウスのマンガ部門を助け、1年後Seven Seasを離れてランダム・ハウスのマンガ部門Del Rey Mangaのディレクターとして正式に就任した。



講談社と業務提携をしているDel Reyは、出版点数は他の大手マンガ出版社に比べると多くないものの『魔法先生ネギま!』『ツバサ』などのヒット作品に恵まれ、現在北米のマンガ出版社としてViz、Tokyopopに並んで第3位となっている。北米を市場とする大手出版社のサポートと小回りの利く小規模出版社の厳選主義を合わせ持ち、その急成長ぶりのために同社は現在コミック業界の羨望の的である。ランダム・ハウスは最近その業績に応えてミダウ氏をアソシエイト・パブリッシャーに昇進した。


インタビュー要約。


過去5年に渡るアメリカのマンガについて一般的な質問から始めたいと思います。あなた自身は最初はVizにいてそれからDel Reyへと移ることで、マンガが商業的な可能性を発展させていくのを見続けてきたという比較的ユニークな視点をお持ちですね。そこでお尋ねしたいのですが(コミックス専門店から)一般書店へとマンガの販売場所が本格的に移った頃、このマンガ・ブームの発展は予想に沿ったものという感覚でしたか?それとも完全な驚きとして受け止めていましたか?

これに関して功績はTokyopopにあると言わなければなりません。彼らが先導的役割を果たし、形態や値段のスタンダードを設定し他の出版社が後をついていけるようにしたのです。Vizにいた頃わたしたちは仕事を進めながら経験を積んでいましたが、理解していただきたいのは、Vizは1990年代初期からダイレクト・マーケットへパンフレットの形態のマンガ*1を売っていたということです。つまりVizの経験は全てダイレクト・マーケットでやっていくためのものでした。『ポケモン』や『セーラームーン』が一般書店で売れるようになるまで、誰もマンガ市場が一般書店にあるとは思いもしなかったのです。


現在では多くの言わゆる「インディペンデント」出版社が…つまりマーベルとDCを除く全てのマンガ出版社と言っていいのかもしれませんが、長い間ダイレクト・マーケットに入り込むのに苦労してきました。標準的な知識としてコミックス専門店の50%がマーベルとDCの2大巨頭のコミックスだけを店頭に並べ、20%が他のジャンルの作品も少しだけ扱い、残りの30%が様々な種類の作品を扱っているのに近い状態です。ほとんどのインディペンデント出版社は最後の30%を超えて自分たちのコミックスを扱ってもらうのは難しいように思われます。Vizはこの傾向に抵抗できていましたか?

いいえ。実際だめでした。わたしが知る限り、コミックス専門店がマンガに熱心だったことはありません。

Vizからランダム・ハウスに移られたわけですが、ランダム・ハウスがVizやTokyopopと競合してやっていけると考える根拠になったものは何ですか?もちろん、ランダム・ハウスが日本の講談社とちょうど契約したばかりだったこともあるでしょうが…

TokyopopやVizがマンガ出版社として現在市場で最も大手である一方で、ランダム・ハウスはこの国で一番大きな出版社です。他の出版社が持ちたくとも持てないディストリビューションのネットワーク、販売力、そして市場に届けるための設備を持っています。講談社との契約は確かに助けになりますが、過去数年のマンガの成長ぶりを考えるとアメリカの大手出版社がこの市場に参入しようとするのは自然なことです。講談社との契約はその方向に向かうための一押しになったに過ぎません。

ランダム・ハウスが講談社との契約によって得たのは、その中から選ぶことができる多くのマンガ作品のリストでした。そしてわたし達は売れるとわかった少数の安定した作品から始めることができたのです。例えば『ネギま!』『ツバサ』『XXXHOLiC』『Gundam Seed』です。これらの作品は数的にも良く売れて、一般書店も適切に反応してくれました。わたし達はTokyopopやVizより少ない出版数から始めましたが、市場で即座に影響力を持つことができました。これは他のやり方ではできなかったかもしれません。

Del Reyが取った比較的保守的なやり方での市場参入には感銘を受けました。他の出版社、特にTokyopopは手元にある作品をあるだけ市場に投げ入れて何が残るか見る、というやり方を取っているように見えます。

そのやり方は全ての出版社に当てはまるとは限りませんね。Tokyopopに関してはその通りかもしれません。ただそれでも、その描写はちょっとTokyopopのやり方を単純化しすぎていますね。

Del Reyのやり方は理由があって保守的なのです。わたし達は始めたばかりですし、ランダム・ハウスに自分達が利益をあげることができる本を出版していると納得させなければなりませんでした。そしてわたし達はそうしてきたし、そうし続けています。少ししずつ出版規模を拡大していますが、読者を獲得できる可能性が高く質の良い作品を選ぶことには常に注意を払っています。

そういうやり方には欠点はないのですか?

もちろん、あります。出版するマンガを選ぶのは科学的ではなく芸術的なものです。自分たちが出版するのを止めた作品が他の出版社から出て良く売れていたこともありました。可笑しいですね。ビッグ・タイトルと思われる作品を出版するのは簡単ですが、Bレベル、Cレベルと思われる作品を選ぶのはもっと微妙です。何故ならどのくらい売れるという保障が全然無いからです。結局経験と話題性に頼ることになります。でももしわたしたちが既に需要があるとわかっている作品だけを出版するとしたら、読者はどうやって新しい作品に触れることができるでしょう?…でも、“保守的”という言葉で話すのはやはり何か単純化しすぎている気がしますね。“保守的”の反対が“リベラル”かというとそうでないし…

“保守的”の反対はこの場合、拡張的?

ああ、それはいい言い方ですね。数年前ほどではありませんが、まだ新しい作品がどんどん出版されていますから。それでもまだ成長の余地はたくさんあると思います。

インタビューは「『ネギま!』『ツバサ』をアメリカで出版するDel Reyマンガ部門ディレクターのインタビュー(2)」に続きます。

*1:訳者註:パンフレットの形態のマンガ:「リーフ」と言ったほうがわかりやすいかも。Vizの「リーフ」には『らんま1/2』(2.95US$)『暗黒の破壊神バスタード』(3.95US$)などがある。基本的には雑誌掲載時の2回〜3回分をまとめたものになっていた。「リーフ」形態になっていたと言ってもアメリカのコミックスのリーフと違ってこちらは白黒。