『萌えるアメリカ:米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか』

以前ちょっとだけ『オタク・イン・USA:愛と誤解のAnime輸入史』を取りあげたけれど、今回も日本の本の紹介。堀淵清治著『萌えるアメリカ:米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか』。

萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか

萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか

たぶん著者のお名前を初めて聞く人も多いと思うのだが、アメリカ版『少年ジャンプ』発売の頃ネットで必死に『JUMP』の情報を集めていた者、更に言うと『ジャンプ』以前のアメリカでの日本のマンガについて情報を集めていた者にとってはちょっと懐かしい(?)お名前だ。

特にジャンプのUSA版『SHONEN JUMP』の創刊時、当時Viz Communications社のプレジデントとして『SHONEN JUMP』を扱う記事に必ずと言っていいほど登場していたのがこの堀淵氏。

この本について言えば、80年代半ばからアメリカで日本のマンガを売ってきた当事者である著者の貴重な逸話がてんこ盛り。アメリカでの「日本マンガ」について興味があれば楽しめることは間違いない。

そこで今更わたしの感想を書いても仕方がないので、『SHONEN JUMP』がアメリカで発売される前に、業界サイトICv2に載った堀淵氏を含むVIZの方々のインタビューを簡単に紹介しよう。このインタビューが行われたのは『SHONEN JUMP』が創刊されるおよそ3ヶ月前。(『SHONEN JUMP』創刊は2002年11月。)

「VIZ 経営陣とのインタビュー:パート1」
「VIZ 経営陣とのインタビュー:パート2」

本の内容と重複することも多いのだが、今の状況を知って読んでもこのインタビューは面白い。例えば、

などが、語られている。ちなみに現在の『SHONEN JUMP』の実売数は20万部ぐらいらしい(記事によって多少異なる)。

アメリカの複雑なディストリビューションのシステム」を詳しく知りたい方はこの堀淵氏の本を読んでいただくとして、ごく簡単に関係のあるところだけ言うと、現行のコミックス専門店へのディストリビューションのシステムだと、専門店は仕入れた本を返本できない。仕入れた本は全て買取りになる。この事実は、コミックス専門店の仕入れる本を“保守的”にする傾向にある。つまりリスクを回避するために売れるとわかっている本だけを仕入れるということになってしまって、未知の本を仕入れてみるというリスクを冒しづらくなってしまうのだ。

この点については以前からよく問題が指摘されていた。例えばPublishersWeeklyの6月20日の記事「ライオット・コミックス、経営危機(Riot Comics on the Rocks)」などでは開店して1年も経たないコミックス専門店の破綻を伝えていて、そのオーナーが「ディストリビューターが開店間もない店に“初心者”プログラムなどを設けて、一定期間仕入れた本を返本可能にしてくれればいいのに」と発言したとしている。

ただし、この「仕入れた本の買取り」は逆に弱小出版社には有利に働く。いったん本が売れてしまえば、返品を恐れる必要が無いからだ。

少し話がずれてしまったが、つまりVIZが『SHONEN JUMP』を最初だけ返本可能にすることで、コミックス専門店側も試しに『JUMP』を置いてみる、ということが可能になったのだ。

「100万部」や「週刊誌化」という目標は、『SHONEN JUMP』創刊からほぼ4年目にあたる今年でも達成できていないが、本で描かれたことに加えこのインタビューなどで語られている戦略なくして今のアメリカ版『ジャンプ』の成功はなかったのだろう。

もうひとつ、このVIZのインタビューのほぼ1ヶ月前に行われた、ICv2による別のインタビューについて触れておこう。アメリカ版『ジャンプ』とほぼ同時期に「アメリカで最初の週刊マンガ誌」として『Raijin Comis』を発売したGatsoon Entertainmentの親会社コアミックスのチェアマン・堀江信彦氏のインタビューだ。

「コアミックス・チェアマンの堀江信彦氏とのインタビュー(Interview with Coamix Chairman Nobu Horie)」

スラムダンク』『花の慶ニ』『シティーハンター』を連載していた『Raijin Comis』はもう既にない(2002年8月創刊。2004年6月廃刊)。あえて要約はしないが、興味のある方にはこのインタビューも面白いと思う。

ところで、最後にもうひとつだけ。
決して、決して揚げ足を取るつもりではないのだが、堀淵氏が本の中で『SHOJO BEAT』を、アメリカで初めての少女マンガ雑誌と書いていることに関して。

MIXX Entertainment時代のTokyopopが出した『SMILE』がアメリカ初の少女マンガ雑誌だと思っていたのだが、真相はどうなんだろう?この『SMILE』に関しては情報があまりなくて、よくわからないことが多い。もし知っている方がいらしたら、コメント欄などで教えていただけると嬉しいです。

さてVIZの堀淵氏の次は、Tokyopop社長スチュウアート・リービー氏の自叙伝かなぁ??読みたいなぁ。