「2008年北米マンガ界10大ニュース:2008年アメリカのマンガ界ではこんなことが起こってた!」(3)


当ブログ『英語で!アニメ・マンガ』の「2008年北米マンガ界を振り返る」特集、第3弾のその3「2008年北米マンガ界10大ニュース」第8位の発表です。

今回は以前の記事と重複するところも多いので、ちょっと量が少なめで読み易くなってます。以前の記事を読んでいない方は、第10位第9位の記事も合わせて、どうぞ。

「2008年北米マンガ界10大ニュース:2008年アメリカのマンガ界ではこんなことが起こってた!」(2)


第8位
マンガ売上縮小:中堅マンガ出版社の苦悩


既に当ブログでも取り上げているが、2008年は北米マンガ業界にとって21世紀に入って始めて味わう“縮小”の年、そして中堅マンガ出版社にとって受難の年だったと言える。


しかしそもそも2008年は、世界的な不況でマンガ業界のみならずアメリカの出版業界全体にとっても、「過去最悪の小売状況」の年だった*1。10月から年末にかけて、Simon & Shuster、Macmillan、Random Houseなど、大手出版社が相次いで大幅な従業員解雇を発表し*2、出版業界でもリストラの嵐が吹き荒れた。


マンガ出版社も出版点数の見直し、本の値上げなどで損失を埋めようとした。発売日の延期、出版予定の取り消し、または単行本の途中打ち切りが決定され、多くのマンガ関連のブログで、出版社の出版予定の発表に一喜一憂するファンの姿が見られた。


2007年に予定された2008年の出版予定点数は、2007年の出版点数より263点多いものであったが、実際に発売されたのはその予定よりも345減って、2007年の出版点数より82少ないものになった。加えて、2008年度末までに出された、2009年度の出版予定点数は、2008年度の実際の出版点数より更に162点減ったものとなっている。

北米マンガの出版点数の推移。

実際の出版数 前年度との比較(数) 前年度との比較(%)
2005年 941
2006年 1087 +146 +16%
2007年 1468 +381 +35%
2008年 1386 -82 -6%
2009年 (1224) -162 -12%

(2009年の数字は予定出版点数。)

『ICv2 Insider's Guide #64』6頁図 参照。

(参考までに、2001年度からの日本のマンガの北米での売上推移表も挙げておく。)

売上($)
2001年 3千万ドル
2002年 6千万ドル
2003年 1億ドル
2004年 1億3千5百万ドル
2005年 1億7千5百万ドル
2006年 2億5百万ドル
2007年 2億1千万ドル
2008年 1億7千5百万ドル

『ICv2 Anime Maga Guide』各号参照。


アメリカでのマンガブームの火付け役となったTokyopop社や中堅のDigital Manga Publishing、加えて、北米で手塚治虫の『ブラックジャック』を出版し、中堅出版社では順調と思われたVertical も大規模なリストラを敢行。そして、BL専門出版社Iris Printと日本のブロッコリーの子会社Broccolli USAが市場からの撤退を余儀なくされた。


↓『きりひと参加』『MW(ムウ)』『アポロの歌』など手塚治虫作品を出版するVerticalが、満を持して出版した『ブラックジャック』。北米でも当然、作品の評価は高い。

Black Jack, Volume 1

Black Jack, Volume 1


大手アニメ・ディストリビューターADV Filmsの経営不振で、その子会社であるマンガ出版社ADV Mangaもほぼ営業停止。ADV Mangaはアニメ雑誌NewType』のアメリカ版を出していたが、その出版も打ち切られた*3。更にオリジナルBLマンガ雑誌を北米で初めて出版したDramaQueenも雑誌の継続困難をほのめかし、出版規模を大幅に縮小している。


先日の記事「2008年北米マンガ売上状況と市場の問題点」で取り上げたように、作品の売上が二極分化することによって、不況の影響を最も強く受けたのは売上トップまで行かない作品を多く抱える出版社だった。出版点数過多の市場で既に苦しんでいた中堅出版社に、不況が追い討ちをかけた結果だと言えるだろう*4


当ブログ関連記事:

「2008年北米マンガ売上状況と市場の問題点」(2009年1月31日)
「2008年北米マンガ売上、2000年以降初めて下がる」(2009年2月15日)

「2008年北米マンガ界10大ニュース:2008年アメリカのマンガ界ではこんなことが起こってた!(1)」(2009年2月20日

「2008年北米マンガ界10大ニュース:2008年アメリカのマンガ界ではこんなことが起こってた!(2)」(2009年3月13日)

*1:「過去最悪の小売状況」:" ICv2 Insiders's Guide #63" p.7 参照。

*2:大手出版社のリストラ:" ICv2 Insiders's Guide #63" p.7 参照。

*3:アメリカ版『NewType』の廃刊後、すぐに同じスタッフが引き継いたアニメ雑誌『PiQ』も出版されたが3号で廃刊。『NewType』の廃刊に関しては、大手のアニメ・ディストリビューターの倒産により広告収入が激減した、「NewType」という雑誌名の使用料を負担できなくなったなど、色々憶測が出ている。例えば、コチラの記事を参照。

*4:2009年2月、ついに業界最大手のVIZ Mediaもリストラを発表した