世界に広がるMANGA(1)。
かなり古いけれど『ジャパン・タイムス』誌の5月28日の記事「Manga by Any Other Name…」からの要約を掲載。(元の記事は残念ながら既にリンク切れ。)
記事も5月末のものだし内容も特に目新しいものはないのだけれど、今更ながら「世界で“manga”はどうなってるのか」を、おさらいするつもりで読んでみるのも面白いかも、と思ったところ。
Merriam-Webster辞書第11版にエントリーが決まるなど、一般名詞化する「manga」。記事の中でも語られている通り「非日本産のマンガはmangaと呼んでいいのか?」は、北米のマンガファンの間でも長い間議論の的となってきた。この件は既に当ブログの「アメリカ人マンガ家のコラム:「Manga」論争について」でも取り上げている。
でももし日本のマンガのスタイルを持った非日本産コミックスをmangaと呼んで仮に良いとしても、どの作品が「manga」なのかを問われればハッキリ言うのは難しい。つまり今は便宜上わたしも安易に「アメリカ産マンガ」とか「非日本産マンガ」という言葉を使うが、少なくともアメリカでは「マンガ」と「コミックス」の境界線はいつもかなりあいまいだ。
特に「グローバル・マンガ」「OELマンガ」「ワールド・マンガ」など、非日本産マンガを数多く出版し、積極的に「マンガ」という言葉を使ってきたTokyopopの「漫画革命」レーベルの作品でも、そして同社が主催する「ライジング・スター・オブ・マンガ」という新人マンガ家コンテストでも、「これもマンガ?」という多種多様なマンガ作品がたくさん紹介されている。
例えばアメリカの手塚賞とも言えるウィル・アイズナー賞に2005年2部門でノミネートされた『DEMO』など「インディー・コミックス」として高い評価を得ているが、日本マンガの影響が見られ、短編集なので作品によっても多少変化はあるものの「インディー・コミックス」ではなく「マンガ」と呼んでも違和感が無い感じがするものもある。
↓『DEMO』
不思議な力を持った若者を描く短編集。明るいものもあるが、全体的に悲しいトーンのお話が多い。
- 作者: Brian Wood,Becky Cloonan
- 出版社/メーカー: A I T Planet Lar
- 発売日: 2005/12/30
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ちなみにこの『DEMO』で絵を担当したベッキー・クルーナン氏はTokyopopの「漫画革命」レーベルから『East Coast Rising』という海賊マンガを出している。
↓『East Coast Rising』
冒頭に登場するクラーケンもどきの怪物や片足の船長、骨太でドレッドヘアのアビー姉さん、そしてモヒカン頭のデススネークなど登場人物がかなりカッチョいい。
- 作者: Becky Cloonan
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2006/04/11
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
絵のスタイル、物語のペース、コマ割りの仕方など「日本産マンガ」と「非日本産マンガ」の違いを分析している英語圏ブログもあるので、これからまた時間があったら紹介していこうと思う。
それでは前置きがかなり長くなりすぎたが『ジャパン・タイムス』の記事要約。
TVゲームの売上がハリウッドの興行成績を総収益で抜き去り、アニメがパタゴニアやプーケットなどの様々な場所で販売されている現在、日本のエンターテイメント産業が世界の若者に対してもつ影響はかつて無いほど大きくなっている。
しかし「クール・ジャパン」に対する興味はそこに留まらず、最も“ローテク”なメディアにまで広がっている。コミックスの日本国産スタイルで「マンガ」として知られているメディアがそれだ。
文字通りの意味は「whimsical pictures(whimusical→奇抜な、風変わりな)」。よく使われものの、あまり理解されているとは言えない「マンガ」という言葉は、たいてい日本のコミックスに関連して使われている。その日本のコミックスは戦後以降進化してきた、一種のスタイルの様式によって特徴づけられたものだ。
大きな目、大量の髪、異常に長い手足などの誇張された身体的特徴、右から左へと連続するコマ、ドラマティックな形を持つ吹き出し、スピード線、擬音語・擬声語、感嘆的な活字などがその様式に含まれる。
このスタイルを模した非日本産のコミックスを「マンガ」と呼ぶことができるか、というのは世界中で多くの人を悩ましている問題だ。しかしそれを何と呼ぼうと、ポップカルチャー業界サイトICv2によると、このグラフィック・アート様式の米市場は2002年の6千万ドルから2005年には1億8千万ドルと過去3年で3倍になり、メインストリームの書店では広いセクションをグラフィック・ノベルに充て、『ロスアンジェルス・タイムス』や大手新聞では日曜版にその英語版を掲載しているのが現状だ。
↓現在『ロスアンジェルス・タイムス』などに連載中の『Peach Fuzz』。
Peach Fuzz Volume 1 (Peach Fuzz (Graphic Novels))
- 作者: Jared Hodges,Lindsay Cibos
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2005/01/30
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (3件) を見る
この米市場における2桁の伸びは大きな注目を集めてはいるものの、実際日本産のコミックスを最も受容しているのはアジアである。日本のマンガ形式の雑誌はタイでは12、台湾では11、韓国では8、香港とインドネシアでは5、中国では4、出版されている。一方でドイツ、イタリア、スウェーデンとアメリカではそれぞれ2つだ。
この海外市場での売上の増加は、国内の窮地に追い詰められたマンガ産業の財源を潤しているだけでなく(日本のマンガ業界は過去10年間で連続して売上が落ちている。2005年には5%の現象で240億円となった)、日本文化を海外に広めるという徐々に重要となってきた役割をマンガが担っていることも示している。マンガファンを自認する外務大臣麻生太郎氏のような政治家にとって嬉しいことに、多くの海外の若者が日本語を勉強したり、日本に観光に来る大きな要因としてマンガが好きなことを理由に挙げているのだ。
マンガが日本国外でその読者数をどんど増やすにつれて、その製作・販売は同時に国際化の道をたどった。結果として、より多くのマンガは日本国外で販売され、非日本人のマンガ家によって製作されるようになったのだ。
その起源が伝統的「浮世絵」と西洋的「シークエンシャル・アート*1」の融合だとしても、多くの純粋主義者は非日本人によるコミックスは「マンガ」と呼ぶべきではないと主張している。そして「マンガに影響を受けたコミックス」「偽マンガ」「模倣マンガ」のような言い方を好んでいる。
現在のところ最も人気がある非日本人にによるマンガ様式の作品には、人気ゲーム『ウォークラフト』を原作とした『Warcraft』、フレッド・ギャラガー氏のオンライン・コミックでもある『メガトーキョー』などがある。
Dragon Hunt (Warcraft: The Sunwell Trilogy, Book 1)
- 作者: Kim Jae-Hwan,Richard A. Knaak
- 出版社/メーカー: TokyoPop
- 発売日: 2005/03/30
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
しかし海外の読者のために翻訳可能な日本産のマンガが既に大量にあるのとは違って、マンガに影響を受けた非日本産のコミックスはゼロから作られる。そこで必然的に1年に1作以上出版するのが難しくなり、結果としてベストセラーなどのチャートからは遠ざかっている。Megatokyo: VOL 04 (Megatokyo (Graphic Novels))
- 作者: Fred Gallagher
- 出版社/メーカー: CMX
- 発売日: 2006/06/21
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
ICv2のバイス・プレジデントのトム・フリン氏によれば「マンガに影響を受けた(非日本産)コミックスはかなり健闘しています、でもトップ15に入るぐらいで、トップ10に入るほどではありません。アメリカで発売されている日本産マンガの多くよりは売れているんですが、日本産の売上トップの作品群『ナルト』『鋼の錬金術師』『フルーツバスケット』『ツバサ』ほどではありません」
アメリカのメインストリーム市場にマンガを持ち込んだとされるTOKYOPOPのCEOスチュウアート・リービー氏は、彼が“様々な民族からなるクリエーターたちの新世代”と呼ぶマンガ家たちに夢中になっている。しかし実際のところその世代の成功は日本人マンガ家たちの成功とは比較できるものではない。リービー氏自身は広い意味の解釈―おおよそ全てのシークエンシャル・アート―に基づく「マンガ」という言葉の擁護者だ.
「究極的に、マンガが世界の文化の中でメインストリームになるためには、それぞれの場所での地元産マンガがあるべきなのです」リービー氏はEメールインタビューにおいてそう語った。「わたしの考えでは、“長く存続する世界の文化の一部を輸出してきた”ということが、日本にとっての成功であり、素晴らしいところだと思います。日本のマンガ家は世界中のマンガ家にとって本当にsenpai(先輩)であり、わたしたちは日本人のマンガ家さんたちに世界中のkohai(後輩)たちを育て、訓練するのを手伝って欲しいと考えています。そしてそれが可能だと思っています」
こんなに長いのに更に「世界に広がるMANGA(2)」に続く。。。
*1:訳者註:「シークエンシャル・アート」:ウィル・アイズナーの『Comics & Sequential Art』によって脚光を浴び、スコット・マクラウド『Understanding Comics』によって定着した言葉(←スイマセン、かなりいい加減な説明です)。1985年出版『Comics & Sequential Art』はアイズナー氏のカッコ良い絵もあって今読んでも面白いと思う。夏目&竹熊氏の絶版書『マンガの読み方』と並んで日本語版、どなたかプリーズ!