『バットマン』『スーパーマン』のDCコミックスが10代の少女向けレーベルの立ち上げ。

マーベルコミックス(『Xメン』『スパイダーマン』など)と並びアメリカのコミックス界の2大巨頭の一つDCコミックス(『バットマン』『スーパーマン』など)が2007年から、10代の少女向けのコミックスを発売すると発表した。レーベルの名前はMinx。

マーベルは最近では日本のマンガ家を起用し、スーパーヒーローの恋愛を描いたコミックス(例えば『Marvel AI』)を出版したりしているが、DCコミックスが10代の少女向けコミックスにここまで力を入れることはかつてなかった。業界サイトICv2の記事「DCがMinxレーベル発表」によればマーケティングに250万ドルもの予算が組まれ、DCのプレジデントの発言では“過去30年年間でDCコミックス最大のプロジェクト”ということだ。

この発表はニューヨーク・タイムスも大きく取り上げられ、英語圏のコミックス/マンガ関連サイト/ブログでも様々な議論を呼んでいる。その議論の内容*1を全部取り上げるのは不可能なので、ICv2に掲載されたDCコミックスのシニア・ヴァイス・プレジデント、カレン・バーガー氏のインタビューの要約をここに載せることにした。

新レーベル立ち上げはマンガが成功したおかげであるとバーガー氏は語っているが、そのコミックスのスタイルはマンガをモデルにはしないようだ。そしてアメリカのコミックスとマンガの違いについてコマのレイアウトがあげられているのが面白い。

以下のインタビューの最初の質問で、ICv2の質問者はちょっと意地悪く突っ込んでますね。。。。

<DCコミックスのシニア・ヴァイス・プレジデント、カレン・バーガー氏のインタビュー要約>

ICv2:最初の質問はニューヨーク・タイムスの記事の冒頭部分の引用についてです。「コミックスを読む10代の少女たちがいてもいい頃だ」のところですが、これはDCコミックスについてですか?もう既にコミックスを読む10代の少女たちはたくさんいますよね?

カレン・バーガー氏:その通りです。DCコミックスのことです。確かに10代の女の子たちはマンガを読んでいます。(ニューヨーク・タイムスから)インタビューを受けた時に強調したのは、10代の少女たちにコミックスを読んでもらうということにおいて、マンガの影響が大きかったということです。どうやらニューヨーク・タイムスにはその点が上手く伝わっていなかったようです。

もちろん、少女たちはコミックスを読んでいますし、マンガも読んでいます。その記事の引用が本当に意味しているところは、DCコミックスを少女たちに読んでもらう時が来た、そしてアメリカの出版社が出版するコミックスを読んでもう時が来た、ということです。現在のところアメリカには会社をあげて少女向けコミックスを発売しているところはないからです。教育関係では10代の少女向けの本を出版しているところもありますし、小さな出版社や自費出版でもあります。でも大手のレーベルとしてはアメリカの出版社で少女向けのコミックスを出版しているところはありません。これが言おうとしていたことでした。

それはあなたがTokyopopをどのように見ているかによると思います。Tokyopopは少女向けの本を出していると思いますが。

オリジナルのマンガ、という意味で?

Tokyopopは出版していますね。

そうですね。Tokyopopは出しています。Tokyopopの本はマンガという範疇に入ると思うので。。。。

それならば質問があります。コミックスとマンガは違うスタイルを持っていると思いますが、Minxの作品のスタイルはアメリカのコミックスに近いものになるんですか?それともマンガに近いものになるのでしょうか?

アメリカのコミックスに近いものになります。視覚的なストーリー運びやページのレイアウトに関してはマンガをモデルに使うつもりはありません。もっと直接的にアメリカのコミックスの升目状のレイアウトにするつもりです。つまり1ページにつき4から6コマがあるようなタイプです。

全てのアメリカのコミックスがマンガに影響を受けているわけではありませんが、それでも多くが影響受けています。そしてその影響には幅があります。例えば韓国系アメリカ人アーティストのソニー・リューの『Re-Gifters』のスタイルにはマンガの影響が見られますが、コマのレイアウトはよりアメリカ的です。

MinxはDCでどのように運営されているのでしょうか?ニューヨーク・タイムスの記事ではシェリー・ボンド氏をMinxのエディターと言っていますが、Minxにはもっとエディターがいるんですか?

いいえ。彼女は唯一のエディターです(笑)。シェリーはDCコミックスで、Vertigo*2のグループ・エディターを何年も勤めてきました。シェリーが数年前に、マンガやヤング・アダルト向け小説に代わるものとしてMinxのアイディアを考えだし、我が社のコミックス部門で新たな分野を開拓してきました。シェリーが直接私に話を持ってきて、私はシェリーと一緒に企画に目を通し、色々アドバイスを与えてこのレーベルを立ち上げるのを助けました。でも彼女がメインのエディターであることに変わりはありません。

Minxの対象年齢はいくつですか?

13歳から18歳です。

VertigoとMinxの読者をどうやって差別化するのですか?

その二つの読者はとても違います。Vertigoの読者は18歳以上です。そして圧倒的に男性です。でもVertigoを読む女性読書も増えています。『サンドマン』は女性に売れましたし、ニール・ゲイマン氏の作品はだいたいそうですね。そして『Y』『The Last Man』『Fables』など多くのVertigoの作品に女性読者がついています。男女両方の読者向けと言っていいかもしれません。でもMinxは特に10代の女性読者に向けた作品になります。Vertigoの作品をもっと若い読者を対象にしたもの、特に女の子向けにしたものということですね。男性は対象ではありません。The Sandman: Endless Nights

それではVertigoは歴史的に見て…

Vertigoはフィクションというジャンルのものでした。でも想像上のものとは言え、Minxは本質的にリアルな世界の中のリアルな少女たちについてのリアルな物語です。

それはマンガとのもう一つの違いですね。マンガはしばしば10代や高校生とファンタジーの要素を結びつけた物語です。

その通りです。ある時点でそういう作品を作り始めないとは言えませんが、今のところはその考えはありません。来年の後半に出版する予定の本の一つには未来的視点を持ったものもあります。サイバー・エンジェルのようなものが出てきますが、それは未来を舞台にしたリアルな世界です(笑)。最初のデジタル・ガールについての物語であって、超自然的な力を持った人々についての話ではなくて…

『My teacher is an alien*3みたいな?

そうです。

アメリカのコミックスのフォーマットではなく、グラフィックノベルで始める決断をしたことについて話しましょう。それをICv2では、対象読者とその読者がどこでどのように本を買うかに関係していると考えているんですが。

仰るとおりです。10代の少女たちはマンガを主に一般書店で買っています。Minxが読者として想定しているのも、既にマンガを買っていて、『Persepolis』*4などの本によってグラフィックノベルを読んだことのある少女たちです。『Persepolis』は素晴らしい本で、少女たちをグラフィックノベルに引き込んでくれました。大人向けに書かれた本ですが、多くの少女たちが読んでいるのです。ヤング・アダルト向け小説に代わるニッチ市場を開拓するにあたって、マンガと『Persepolis』の間のどこかに自分たちの市場を探しているところです。

10代の少女たちがグラフィックノベルを主に一般書店で、もちろん一般書店でだけではありませんが、購入していることを話してきました。DCのようにダイレクト・マーケット*5に影響力のある出版社が少女向けのレーベルを立ち上げるということで、コミックス専門店にも女性のお客さんが来ることを期待しますか?

そうなれば素晴らしいと思います。コミックス専門店に少女を呼び込むことはわたしたちの長年の目標でした。いくつかのVertigoの作品ではそれができたと思いますが。でも少女たちがもっとコミックス専門店に来るようになるといいですね。

DCの読者層で言うと、Vertigoの作品の中で『サンドマン』 が一番多くの女性読者を獲得していますか?

そうですね。

その割合はどのくらいですか?

はっきりとした数字は手元にありません。ニール・ゲイマンのウエブサイト、サイン会、コンベンションに来たり、『サンドマン』に関するパネルに参加した観客や連絡を取った人々についての彼の話を聞いたところでは、『サンドマン』で言えばだいたい男女比は半々という感じです。

スケジュールについてお聞きしたいと思います。2007年にMinxの作品はいくつぐらい出る予定ですか?

7冊です。5月に『P.L.A.I.N. Janes』から始まって1月に1冊ずつだします。

シリーズものになるのはありますか?

2作品は2巻目が出る予定ですが、殆どが1冊で完結します。

2巻が出るのはどれですか?

まだ正式に発表していません。

2008年に出す本の予定は?

まだ決定したわけではありませんが、2007年に出すのと同じくらい出す予定にしています。7冊から8冊ぐらいです。

Minx出版に関して何か他に言いたいことはありますか?

DCにはストーリーを語るためのたくさんのライターやアーティストがいて、コミックスには成長する可能性のある市場があります。マンガのおかげで10代の少女たちがコミックスというものを読むようになりました。DCはMinxで10代の少女たちに、魅力的なストーリーを読むための場所をもう一つ提供できるようになりたいと考えています。

*1:Minxに対するブログ界隈の反応:好意的な反応も多いが、例えば「Minxから出る作品には女性アーティストによるものがほとんどない」などの否定的なものもある。

*2:訳者註:DCコミックスのVertigo:DCの中のより高い年齢層を狙ったコミックスのレーベル。映画化された『V・フォー・ヴェンデッタ』もVertigoレーベルのコミックス。

*3:訳者註:『My teacher is an alien』:児童向けSF作品のようです。

*4:訳者註:『Persepolis』イスラム革命時代のイランで、マルクス主義者の家に生まれた6歳の少女を主人公とした自伝的コミックス。

Persepolis: The Story of a Childhood (Pantheon Graphic Library)

Persepolis: The Story of a Childhood (Pantheon Graphic Library)

*5:訳者註:ダイレクト・マーケット:一般書店とは別のコミックス専門の流通市場。