アメリカで出版されている手塚治虫作品。

Virtical社から10月に出版された『きりひと讃歌』が多くのネット上の批評家によって激賞されているおかげで、最近英語圏のマンガ関連サイトで「手塚治虫」の名前を見ることが多い。

↓英語版『きりひと讃歌』。

Ode To Kirihito

Ode To Kirihito

ただ良い批評を得ているからと言って売れ行きが良いとは限らない。コミックス専門店での2006年10月のマンガ売上トップ50の49位にランクインしたものの、『ナルト』や『フルーツバスケット』のように、アメリカの一般書店でのベストセラーリストに登場することはないし、実際のところどのくらい部数が出ているのか全くわからない(数千部〜1万部の間ぐらいかもしれない)。それでも『きりひと讃歌』が多くの濃いマンガ読みの心をとらえたのは間違いないようだ。

きりひと讃歌』のネット上の批評を幾つかあげると、例えばComic World Newsのデビッド・ウォルシュ氏は『きりひと讃歌』は「(英語で出版された手塚マンガの中で)手塚が“マンガの神様”であることを最も良く証明している作品」とし、Toon Zoonでは「『きりひと讃歌』は必読の古典」 「マンガの最高傑作」という二つのレビューを載せている。

Vertical社はマンガに限らず日本の小説などを英語圏で紹介している出版社。以前にも手塚治虫氏の『ブッダ』を出版し、『ブッダ』も多くの批評家から絶賛された。タイム誌でコミックス欄を担当するアンドリュー・アーノルド氏も「良いコミックスを捜しているなら『ブッダ』を読むこと。傑作。」と書くなど、『ブッダ』はアメリカでの「手塚治虫文化賞」とも言える「アイズナー賞」の「ベスト海外作品賞」を2005年に受賞している。

↓英語版『ブッダ』1巻。

Buddha, Volume 1: Kapilavastu

Buddha, Volume 1: Kapilavastu

↓日本のポップカルチャーについての論文集。宗教的側面から『ブッダ』を論じたものあり。

Japan Pop: Inside the World of Japanese Popular Culture (East Gate Book)

Japan Pop: Inside the World of Japanese Popular Culture (East Gate Book)

英語圏で出版されている手塚作品はそう多くない。実際に現在手に入れることが可能なものとしては、Dark Horseの『鉄腕アトム』『メトロポリス』『来るべき世界』『ロストワールド』、Vizの『火の鳥』(Vizからは『ブラックジャック』も出版されたが、2巻まで出て絶版。続刊の発売予定はない)、Cadence Booksから『アドルフに告ぐ』、そしてVerticalの『ブッダ』『きりひと讃歌』がある。Verticalからは来年『アポロの歌』も出版予定。

これしか出ていないと言っても、フレデリック・ショット氏の著作『ニッポンマンガ論』などに出てくる同氏の苦労を考えれば、これでもかなり出版されたと受け止めるべきかも。他のマンガ作品と比べ手塚マンガはマンガ専門でない出版社が出版するケースが多いので、作品としては『アポロの歌』の次は『奇子』や『陽だまりの樹』あたりだろうか(←偏見かな?)。個人的には、映画も来年公開されることだし大好きな『どろろ』を出して欲しいような。

どろろ(1) (手塚治虫漫画全集)

どろろ(1) (手塚治虫漫画全集)

(追記:上に書き忘れたが『きりひと讃歌』も『ブッダ』もオリジナルの右開きではなく、左開きに変更されている。)